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【研究倫理入門】慎重に研究する理由

人間を調査対象とする研究では、研究が参加者及び社会にもたらす利益に対して、不利益が非常に大きくならないようにする必要があります。そのため、多くの大学では研究倫理審査委員会というのを設けており、研究のプロセスが倫理的に問題ないかチェックを行っています。

なぜ研究は慎重に行うべきなのでしょうか?これは研究成果を求めるあまり、研究参加者の人権を蔑ろにしてきた過去があるからです。

第二次世界大戦中の人体実験

第二次世界大戦中、強制収容所の収容者、捕虜、兵士を用いた人体実験が行われてきました。七三一部隊による細菌兵器開発を目的とした人体実験[1]や、ナチスドイツによる麻酔無しでの移植手術[2]等が具体例として挙げられます。

人を対象とする研究に関するルール

これらの人体実験への反省から、許容される医学実験に対する10の視点(ニュルンベルク綱領)が発表されました。そして、それを改良する形で、ヘルシンキ宣言という研究倫理指針も公開されました。各詳細は以下のリンクをご参照ください。

特に抑えるべき点は、研究参加者が自ら研究に参加することに同意していること(インフォームド・コンセントと言います)、行き当たりばったりで実験しないこと、不必要な苦痛や障害を起こさないようにすることの3点です。このような観点を踏まえると、トラウマを誘発しかねないインタビュー調査は慎重に且つ適切に行う必要があります。

タスキギー梅毒研究

20世紀半ば、アメリカの連邦公衆衛生局は、アフリカ系アメリカ人を梅毒(性感染症の一種)の有無で比較するという研究を行いました。この研究では、梅毒患者に対する治療が行われず、梅毒患者の経過が観察されました。

この研究の非倫理性は大きなニュースになり、アメリカではこの研究への反省を基にベルモントレポートが発行され、人を対象とする研究のための基本的倫理原則として、「人格の尊重・善行・正義」の3つが提示されました。

現在ではこの3原則が改良され、「自律尊重・無危害・善行・正義」が医療倫理の4原則として知られています[3]。

今日からできること

たとえ学術研究を目的としない場合でも、アンケートやインタビューに協力することで研究参加者はどのような気持ちになるか、何か取り返しのつかないことが発生しないか考えることが重要です。そして悩ましい点は学術有識者に相談することも推奨されます。

引用

[1] 常石敬一. (1999). 医学者たちの組織犯罪: 関東軍第七三一部隊. 朝日文庫.
[2] Bruns, F. (2014). Medical Ethics and Medical Research on Human Beings in National Socialism. In: Rubenfeld, S., Benedict, S. (eds) Human Subjects Research after the Holocaust. Springer, Cham. https://doi.org/10.1007/978-3-319-05702-6_4
[3]
 Beauchamp, L, T. & Childress, F,J. (2019). Principles of Biomedical Ethics (Fifth Edition). Oxford University Press.

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