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表参道の魔法

東京へ引っ越すと決まった時、割と大きな懸念事項の一つが「美容院をどうするか」だった。
京都では、20歳の頃から10年以上同じ美容師さんにお世話になっていた。いつも納得のいく髪型に仕上げてくださり、安心してお任せできるので、その方がお店を移られても、また新しいお店へ付いて行く、という粘着質な客として長年やらせてもらっていた。それ故、私は大人になってから「美容院を探す」という作業をしたことがなかった。

そんな状態で、しかも相手は東京で、ホットペッパービューティーなど自分の手に負える気がしなかったので、引っ越しが決まった時点でその美容師さんに、東京の「ここならハズレは無いはず」という美容院をいくつか教えてもらえないかとお願いした。
挙げられたお店はどれも、THE TOKYO!!という感じの立地だった。お値段も結構、結構な感じだった。でも私は、どこの誰とも分からない謎の美容師に変な髪型にされることを何よりも恐れていたため、従順にその中の一つ、表参道の美容院に行くことにした。

どこにあるかは分からなくても、地名は皆聞いたことがあると思う。泣く子も黙る表参道だ。そんなTOKYOど真ん中の、しかもそこそこ値の張る美容院なんて気後れしてしまいそうだが、そんな状況で「まぁ向こうも接客業なんだから、普通にしてれば悪いようには扱われないでしょうよ。」と図太くサクサク予約が取れる自分に気付いた時、あぁ、私は順調にオバチャン化しているな、と感じた。

曲がるべき道を通り過ぎて軽く迷子になったが、無事お店に辿り着けた。

担当してくださったのは、同い年くらいの明るい女性の美容師さんだった。私は「現状維持」と思ってカットをお願いしたが、その美容師さんは、「今の髪型も良いけど、こういうのも良いんじゃないでしょうか。ほら、ここをハネさせたり。パーマあててみるとか。今回カットは今の形を維持しておくけど、最後に試しに少し巻いてセットしてみてもいいですか?ほら!すごく似合う!!」とか何とか言いながら、あれよあれよという間に見たことのない髪型に仕上げてくださった。

え、何これ凄い…。自分で言うのも何だが、かなり良い感じである。
こんにちは、新しい私…!

期待通りの髪型にしてもらえるか不安に感じながら新しい美容院を訪れたけれど、この美容師さんは、私の期待を優に超える仕上がりを見せつけてくださった。率直に、感動した。

「次はパーマも検討してみてくださ~い^^」とお見送りされながら、これこそが、私が東京生活に求めていたものかもしれないなと思った。京都での暮らしに何も不満は無かったけれど、それでも思い切って新しい街へ移ることで、自分に当たる日差しの角度が変わる。知らず知らずのうちに固定されていた思想や行動様式が、外からの刺激でパーンと心地よく破壊される。その小さな変化が楽しい。
でもそれは、今までの暮らしを否定するという意味ではなくて、あくまでもその延長線上にあるもので。実際、この美容院を紹介してくれたのは京都でお世話になった美容師さんなのだから。

そんなことを考えながら表参道を歩いていた私は、ここ数年で一番背筋が伸び、風を切れていたと思う。


「カットは今の形を維持しておく」のお言葉通り、その夜シャワーを浴びたら、すっかりきちんといつもの髪型に戻った。
アイロンやワックスで色々やってみても、あのとき鏡で見た自分を再現することはできていない。あれは魔法だったのか…?いや、思い切ってパーマをあてれば…きっと…?そう思いながら、表参道の美容院のメンバーズカードを見つめている。

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