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【感想】ようこそFACTへ
『チ。』の作者の新作と聞いて即購入。
※ちょっとネタバレ注意
【あらすじ】
非正規雇用のうだつの上がらない人生を送ってきた主人公(渡辺)が、
大学生のボランティアサークルに所属している女の子に助けられ、恋をする。
連絡先を交換する、二人きりになる、複数回デートするなど、実績面で言うなら順調に進んでいる二人。
ただ、自分の劣等感が邪魔をして、告白にまで至れない。
渡辺が消沈している中、”FACT”という怪しい組織のSNSアカウントが、ボタンティアサークルに否定的なリプライを送っているのを見つける。
渡辺は、”FACT”についての調査から、本部を特定し、訪問する。
迎えた人物は、恰幅の良い本部長であった。
本部長は、ボランティアサークルにこれ以上関わるなという彼の訴えを聞き、この世界はDS(ディープステート)に支配されていると渡辺に説明する。
最初は嘘だと考えていた渡辺だったが、今の自分の状況はDSが悪いのではないかと考えていくようになり……
【感想】
一巻を読んですぐに最後まで読むくらい面白かった。
『チ。』が好きならお勧め。魚豊を味わえる。
全体として、社会に不満を持つ、もしくはどうしようもなく追い詰められた状況の人間が、陰謀論にハマりやすいことを描いている。
ただ、陰謀論ハマっている人たちを”恋”という表現にすることで自分の中に腹落ちしやすい内容になっていた。
自分を救ってくれる言説があって、その言説が否定されると、怒って、正しくないと言って、取り乱して家で泣く。確かに恋だなあと。
個人的に気に入っているシーンとしては、主人公と対極に位置するボランティアサークルの女の子が、主人公の議論に対して、自分の知識を使って主人公を論破するシーンだ。
そこにより、主人公は、論理的思考が得意だと作中で言っているが、おそらくインプットが苦手で学業もうまくいかなかったのではないかと予想できる。
もしくは、論理的思考を使えていたのは小学生までで、以降は論理的思考を使う機会がなくさびれていたのかもしれない。
ただ、正しい知識を得るまでの環境というのが整えられていないというのも、原因としてはあると思われる。
主人公と女の子の住んでいる家の内部環境には大きく違いがあり、主人公は最低限の家具すらない環境、女の子の家は本棚がたくさんあり、知識にアクセスしやすい環境であった。
(女の子の家が陰謀論者の本だらけだったら逆にダメだったかもしれないけど・・・)
結局環境かい!
じゃあ主人公は、最終、目を醒ましてより絶望するのでは・・・と最初は思うかもしれないが、そこは魚豊先生。ちゃんと最後まで描き切って気持ちよく終われます。
【この本をお勧めしたい人】
・知識として陰謀論を知ってみたい人。
・自分に劣等感を持っている人。
・魚豊さんが好きな人。