蝋燭屋の麻婆麺でかつてない「シビれ」を味わう
私は辛いものがそこそこ好きだ。
特別辛さに強いわけではないのだけど、「辛すぎて食べきれなかったらどうしよう...」とドキドキしながら注文して、「すごく辛い...無理かもしれない...」と辛さやら熱さやら食べきれないかもしれないという焦りやらからくる汗を流しながら食べるのが好きなのだ。
なので辛いと書かれたメニューがあったらとりあえず頼んでみることにしている。
そうしてこれまでに食べた辛いものの中でも印象に残っているのが、今回紹介する蝋燭屋の麻婆麺だ。まあ印象に残っているのは辛さというよりはシビれなのだけど…。
あれはまだ新型コロナ流行前で、会社に出勤して仕事をしていた頃。
テレビを見ていたら「蝋燭屋」というお店の「麻婆麺」がビリビリシビれる辛さでおいしいと紹介されているのを見た。検索したら梅田の職場近くにも店舗があるのを見つけたので、これは行っておかなくては、ということでお昼に行ってみた。
店内は一般的なラーメン屋さんのような感じで、カウンターとテーブル席に分かれている。テレビで紹介されたからか満席で外にも行列ができていた。
メニューは「麻婆麺」「担々麺」「汁なし担々麺」。辛いメニューしかない。麻婆麺にはパクチーかチーズを載せることができる。担々麺にもひかれるけど、今回は麻婆麺目当てなので麻婆麺を注文した。
シビレる辛さというのがどれほどのものか分からず怖かったので、まろやかにしてくれそうなチーズトッピングを追加しておいた。あと辛さを分散できるようにライスも頼んでおいた。腰が引けてる様子が目に見える注文内容だけど、この布陣なら想像以上の辛さでも何とかなるはず。
麻婆麺は「辛さ」と「シビれ」のレベルが選べる。とりあえず両方普通で頼む。シビれのレベルってなんだ。
待っている間に隣の席をチラ見すると二人組が汁なし担々麺らしきものを食べている。「辛い」「辛すぎる」「やばい」と言いながら水をがぶ飲みしている。おいしそうだけどかなり辛いらしい。箸が進んでいない。麻婆麺…食べきれるかな。
チラチラ見てるうちに注文した麻婆麺が来た。チェダーチーズが2枚載っていて、チーズと山椒がとても良い香り。ラーメンに麻婆豆腐をのせたような、イメージ通りの見た目。
ズズっと食べてみる。
辛さはそこまで強くなくて注文した通りの中辛という感じ。
しかし山椒のシビれがすごい。ビッリビリきた。なにこれすごい。唇と舌がずっとビリビリ震えている。さすがシビレヌードルと店名に入っているだけある。
これまで辛いものと言えば唐辛子の辛さだったので、山椒でシビレるのは新感覚。これを辛いと表現するのが正しいか分からないけど。
山椒といえば「香りが良い」とか、粒山椒を食べたらピリッとくるとかぐらいの印象しかなかったのでちょっとなめていた。一口食べるたびに「粒山椒を30粒一気にかみ砕いたらこんなシビれがくるんだろうな」というくらいのシビれが襲ってくる。
唐辛子で辛いのはいわゆる「痛み」なので熱い料理を食べる時は痛みが強くなってつらいのだけど、山椒のシビレは「痛み」じゃないのかシビれながらも熱い麺をずるずる食べ続けることができるのが不思議。ただシビれが強くなっていくだけだ。まあそれはそれでつらいのだけど。
こういう辛さとシビれのハーモニーを麻辣味と言うらしい。麻が山椒のシビレで、辣が唐辛子の辛さを表す。麻辣味を生み出す麻の山椒は日本の山椒とは別物の花椒という中国の山椒らしい。
他にも青山椒という、花椒と比べて上品な辛さの中国山椒もある。テレビでよく聞く「ぶどう山椒」は中国ではなく日本の山椒。
つらいつらいと書いているが、この麻婆麺がシビれてつらかっただけかというとそんなことはなく、その後にとても幸せな時間が待っていた。
一口食べるごとにシビれのビリビリが強くなっていき、やがてつらくなって水を飲むのだけど、その水がとてつもなくおいしいのだ。
冷たい水によってシビれが一時的にひいていき、代わりに甘みを感じる。ただの水なのに甘いのだ。山椒がちょっと苦みを含んでいるからかもしれない。
その甘さによって一気につらさから解放され、何とも言えない幸福感に包まれるのだ。
何口か食べてはシビれに耐えられなくなって水を一口飲み、はへーっと気持ちよくなる。もしやこれがシビレの楽しみ方なのか。サウナと水風呂を繰り返してるうちに整うのと同じような気分の良さだ。サウナで整ったことはないのでイメージだけど。
ともあれシビれと整いを繰り返し、最後に水をグイっと飲んで幸せな気分で食べ終わることができた。おいしかった。
腹はタプンタプンだが大満足だ。
あれから数年が経ち、家で麻婆豆腐(辛くない)を食べていてふとあの麻婆麺を思い出した。また食べに行きたい。
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