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みかんと水羊かん
半年前くらいから訪問診療に行っている方がいる。
仮にAさんとしよう。
Aさんの病気は、体をうまく動かすことがだんだんとできなくなり、最後には話すことやご飯を食べることも難しくなってしまうものだ。
Aさんも病気が進行し、話すことがほとんどできず、口からご飯は食べれず胃ろうで栄養を撮っていらっしゃった。
そのため、診察の時はうなずきやちょっとした声、指で丸を作ってもらう、などしてコミュニケーションを取っていた。
ある日の診察。
いつものように、うなずきやジェスチャーでコミュニケーションを行って診察を行い、ベッドから離れようと後ろを向いた。
すると、娘さんが突然、
「え、どうしたの?何、先生に何かいうの?え、文字盤使うの?」
※ 文字盤とは、あいうえおが全て書かれた用紙。文字を指差すなどして言葉を伝えることができる
「え〜っと、み・・・。み、ね。」
「・・・ん?どこ?す?違う?・・・・わからないな・・・・」
「え、もっとこっちに?・・・あ、か!か、ね!」
「え〜っと・・・ん?ん!」
「あ!!!みかん!!!!!」
「え、ちょっと、お母さん!!先生にいうなんて・・・」
「あの・・・どういうことでしょう・・・??」
「いや、昨日、先生に何か言うことないかって聞いたら、みかんと水羊羹食べたいって言ってて。誤嚥するからダメだって言ったんですよ。胃ろうから入れてるからって。」
「前からずっと言ってるんですよね。やっぱ冬だからか、みかんと水羊羹食べたいようで・・・。昔は甘いもの好きだったんですよ。」
「でも、もう1年も口から食べてないですし、無理ですよね・・・。」
「それは、ぜひ食べるのを挑戦しましょう!!!!」
半年訪問に来ていてこれまでは文字盤で言葉を伝えることなんてしなかったAさん。
そのAさんが、娘さんの制止を振り切ってまで、我々に「食べたい」という意思を伝えてくださった。
その想いと意思がとても嬉しく、それに答えたいと思って、思わずすぐに「Yes」と反応してしまった。
もちろん、食べられるようになるにはステップが必要で、すぐには難しいかもしれない。
でも。
本人の内側にあった想いを聞きだせた瞬間。
そしてそれを叶えるためにみんなで頑張れる時間。
この時間がとても好きで、訪問診療をしていてよかったと感じるのだ。
文・イラスト:ぴろ
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