葛(くず)
湖畔では、葛が日当たりの良い林縁をマントのように覆っています。
他の植物を支えにして絡みつき、旺盛な生命力でぐんぐん蔓を伸ばしますが、成長が過ぎると、光を独占し、支えとなっている植物を締め付けて枯らしてしまいます。
葛は、同じマメ科つる性植物である藤とともに、葛藤という言葉の語源にもなっています。
マメ科植物の根には、根粒菌が共生しており、大気中の窒素をアンモニアに変えて植物に栄養を供給し、植物は光合成産物を菌に与えます。
この共生関係によって、マメ科植物は栄養豊富な豆を実らせ、落ち葉は地上に窒素分を還元し、豊かな土壌を作ります。
この性質は、風通しの良い循環のなかで、美しい環境形成に生きてくるのです。
古より私たちは様々な形で葛を活用してきました。
その根は葛根という生薬となり、体表を緩め、肩や首など筋肉の強張りを和らげるなどの効用から、葛根湯をはじめとした漢方処方に配合されます。
その肥大化した根の形は、人間の肩を思わせ、薬効にリンクしているのも興味深いところです。
根を水にさらして精製した葛粉は、くず湯や和菓子、精進料理などに使われ、食養生の分野でも重用されています。
また、甘い香りの花は二日酔いの薬として、蔓の繊維は葛布という織物にして、葉は家畜の飼料としても用いられます。
私たちは、自分や周りへの不信があるとき、身体の強張りや心の葛藤をほどくことができないものです。
足元に寄り添う生命を信頼し、大いなる循環に根ざすとき、心地よい緊張と弛緩のリズムのなかで深く安堵するでしょう。
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