ヴァン・クライバーン インタビュー(後半)
(ヘッダー写真は、1月24日、愛知芸術劇場で亀井聖矢さんがスタインウェイの上に置いた花束。このまま、アンコールのラフマニノフピアノソナタ2番2楽章を弾いてくれました。)
ヴァン・クライバーンのインタビュー後半です。ヴァンさんの発言は太字です。
(なお、前半はこちらです👇)
♬ 作品をとことん愛す。ピアノに仕事をさせる
ー膨大な作品の中から、演奏する曲を決めなければならない。どうやって演奏する作品を決めるのですか?
それは多分に主観と好みの問題です。第一に、演奏家が抱く野心にも左右されます。レパートリーの全てを演奏したいと思う演奏家もいます。それでもいいんです。ただ、音楽は時間芸術です、絵画が空間芸術であるように、これは事実です。
もし私がこの世のあらゆる手段を使って好きな画廊に行って、例えばルノワールの作品を10枚買うことができたとしても、所詮1人の人間なのですべての作品を等しく愛することができるか自信が無い。
個人的には、自分が演奏する作品は、とことん愛したいんです。なぜなら、偉大な作品を自分の頭と心に入れると、それは永続するんです。クラシック音楽は天職で、天から与えられた仕事です、ビジネスではない。
幼い頃に音楽の旅の最初のステップを踏む時に、自分の人生の如何を問わず、音楽の旅は永遠であるということを知っておくことが大事です。これは本当に素晴らしいことですよ!
アメリカに移民としてやってきた若い演奏家の記事を読みました。レポーターが『あなたのアメリカンドリームは何?』と訊くと、彼は非常にシンプルに『私のアメリカンドリームはちっぽけ、でも非常に普遍的。私のアメリカンドリームは音楽家であり続けること』と答えたんです。これは深いですよ!
略
ー公演に自分の楽器を持っていくことができませんね。ホロヴィッツはしたそうですが、あなたはしていませんね。このピアノが自分のものになったと思えるまで、どのくらいかかるものなのですか?
それは、そのピアノでの練習時間がどのくらい与えられるかによりますね。私は17歳まで、母が唯一の師であったのですが、彼女自身、ニューヨークではリストに師事したアルトゥール・フリードハイム先生(1853-1932)に教わるという素晴らしい経験をしています。その母の口癖の一つに『出るからには、どんな楽器が与えられようとも、それにしっかり仕事をさせるのがあなたの義務』というものがあります。
ー明らかに、他のピアノよりもいい仕事をするピアノがあったりするのですか?
親しみが湧くピアノはありますが、『しもべ』として仕えるためには頑張らないといけないのです。全てを駆使して、そのピアノにいい仕事をさせないといけない。思い込みは禁物で、そこにあるピアノを他と比べたりしてはダメ。仕事をしないといけない、ピアノにも仕事をさせないといけない。
ーただ、各地であなたが演奏しているスタインウェイはどれも最高級のものに思えますが?
ええ、私はスタインウェイのピアノが大、大、好きです(ヴァンさんはスタインウェイアーティストでした)。素晴らしい技術者がいます。
ピアノは多くの点で人間によく似ています。各地で素晴らしいピアノに出会いますが、その中になぜか惹かれて、愛着が湧き心に残るピアノがあります。
ー今回のように野外で弾く時はまた少し違うのではないですか?暑さとか湿気とか。室内ですと空調で調整されていますよね。
ええ、野外は違いますね、でも屋内であろうが、常に様々です。
ーえ?ホールの中でもですか?
もちろんです、そういう経験を何度もしました。
このピアノはこうだと確信を持って言えないんです。同じホールでも、オーケストラとのリハーサルの時にはすばらしいと思ったピアノが、本番では気に入らなかったり、あるいはその逆もあります。非常に面白いんです。
ーピアノが気まぐれなんですか?あなた自身が気まぐれなんですか?
そうではなく、素晴らしい瞬間や会場の雰囲気、お客様から伝わるエネルギー、公演の時間全体を通してそこに宿る魅力、これが実に様々なんです。それを私は何度も経験してきました。
略
♪ コンクールは扉
ーチャイコフスキーコンクールに出場しなかったら、あるいは、2位や3位だったら、違っていたと思いますか?
さぁ、人生どうなっていたんでしょうね。
私は常に、コンクールは機会だと言っています。扉なのです、部屋ではない。部屋は、その扉をくぐった先に自ら作るものなのです。
ー今日はお話頂き、ありがとうございました。
こちらこそ。🔚
(全体はもう少し長く、各論に入ったところなど一部割愛しました。一つヴァン・クライバーンさんの興味深い引用がありました。『最上位の数学の形が音楽である。音楽は数学でありながら、同時に魂が動かされる。だからこそ、人を気高くするのだ』とのプラトンの弁です。これだけ、付け加えておきます。)
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2013年、ヴァン・クライバーン氏は78歳で天国に旅立たれています。亡くなる2週間前、その大ホールがチャイコフスキー国際ピアノコンクールの会場でもあるモスクワ音楽院に対し、最期の親愛の証を贈ったそうです。愛用したピアノをオークションに出し、その売上金をそっくり音楽院に寄付したのです。
ヴァン・クライバーン氏亡き後、地元テキサス州フォートワース市では『Russian Romance』とタイトルが付けられたクライバーンガラが開かれ、露人作曲家の名が付いたメニューのフルコースディナーが提供されたそうです。source:
長くなりましたが、最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございます。
最後に、ヴァンさんがこの世に生まれて下さったことに感謝!Thank you, Mr. Van Cliburn for having been with us for great 78 years of your glorious life!
そして、私の一番のピアニスト亀井くんが、ピアニストとして生きてくれていることに心から感謝💚🐢 Fin.