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エブリ・ブリリアント・シングの音楽④お母さん編

こんにちは!興味を持ってくださりありがとうございます。こちらはエブリ・ブリリアント・シング(以下EBT)の考察④「音楽・お母さん編」です。

前置きとして、EBTの没入感の仕掛けの考察や感想などを(ネタバレなしで)別にまとめていますので、よろしければそちらもご覧ください。

ここから下はがっつりネタバレしますので、ネタバレが苦手な方やまだ観ていない方はご注意くださいね。

以下のリンクはイングランドのTheatre By The Lake(以下Lake版)が公開しているEBTの脚本です。このスクリプトを中心に、日本版EBTと参照して考察しています。
Every Brilliant Thing by Duncan MacMillan - Theatre by the Lake


当日配布されたパンフレット


お母さんにまつわる音楽はひとつしかないのでサクッと。

Drown In My Own Tears

  レイ・チャールズ

「僕」が懐かしそうに、″お母さんはピアノを弾いてよく歌ってた”と思い出す曲です。ソウル感があってすごくかっこいい曲です。歌うのはめちゃくちゃ難しそうですが。ピアノの弾み方だけ聴いてても、鬱のしんどい時に弾ける曲なの?って最初はおもいました。

この曲がかかるとき「僕」は片足でトントントンと跳ねてターンをすることが多いんですよね。笑顔が消えて視線が落ちているときでも、癖になっているみたいにトントンと傾いてターンする。お母さんと歌っていた幼少期の「僕」を思わせるしぐさで、胸にくるものがあります。

さて、お母さんの歌う曲なので女性の Drawn In My Own Tearsを聞いてみたくて探してみました。ノラ・ジョーンズも歌っててすごく雰囲気があってよかったんだけど(こちら)ここはやっぱり設定どおり、ピアノのみで聴いてみたい。

「僕」の心をしびれさせるような「YOU!!!」でしっかり吠えてくれて(実際に探してもらうとわかるけど「YOU」で抜けるように吠えるVo.は多くない)、おうちで歌っている感もある女性のDrawn In My Own Tearsが。


それで、最初に聴いたときに痺れたのがこれなので貼っておきます。彼女はイギリスのインディーズ・ミュージシャンみたい。とても素敵なのでぜひ最後まで聴いてみてください。私は「僕」のように電気が走りました☆
最初は音ちっさ!ってなるので、最後に音量を戻すの忘れないでね。


この音楽が最初に紹介されるのは、7歳の頃の回想中「自分が惨めな子ども時代を過ごしたなんて思ったことはない」という台詞に続く場面です。

Lake版では「惨めな子ども時代を過ごしたと考えたくはない。だって、当時のはそんなふうに感じていなかったもの」というニュアンスで語られています。

I don’t want to make it sound like my Mother was a monster or that my childhood was miserable because it wasn’t.

Every Brilliant Thing by Duncan MacMillan - Theatre by the Lake



7歳の「僕」は“レイチャールズの「YOU!」の歌い方”を314番目のリストにあげています。その「YOU!」を聴くとき、日本版では「電気が走る」と表現しますが、Lake版では「背筋に寒気が走る、ゾッとする」と表現されています。

There’s a moment halfway through that sends shivers down my spine.
(中略)
The way he sings the word ‘you’ gets me every time.
曲の途中で、背筋がぞわっとする瞬間があって、彼のこの「YOU!」を聴くといつもそうなるんだ。

Every Brilliant Thing by Duncan MacMillan - Theatre by the Lake

はじめ「僕」が"背筋がぞっとした"という表現をしたのは、まだ幼く表現が難しかったから?とおもったのですが、鳥肌が立つ状態はgoose fleshという表現なので子どもでも使えそうな気がして気になり調べてみました。

「興奮と背筋が凍るような感覚」ってどんなだろうと考えていたときに、QUEENの”Bohemian Rhapsody”にも sends shivers down my spine が出てくると知って、そちらの歌詞をみてみました。

こちらの方は「体の芯から震えがきて、痛みが走る」ような状況を想定されています。このことから、goose flesh(鳥肌)のような表面的なゾクゾク間ではなく、身体の中心から脳天に突き抜けるような痺れ感のことなのかもと理解しました。それを日本版は「電気が走る」と訳したんですね。なるほどね、うまいな~。


Drawn In My Own Tears は劇中で3回流れます。
7歳のときの回想➀
サムが実家に来た日②
結婚式のあと③
②は佐藤隆太さんが弾き語りをしています。

単純にお母さんの一番好きな曲なんですかね。それとも心が動いたときに思い切り弾きたくなる曲なんでしょうか。



1956年にR&Bチャートで1位を記録したこの曲は、レイ・チャールズのオリジナルではなく、1951年にルラ・リードが歌った曲をカバーしたものです。聴いてみるとレイ・チャールズのアレンジの正解感が増します。


では歌詞を見てみます。以下は意訳です。

******************

It brings a tear into my eyes, when I begin to realize,
I've cried so much, since you've been gone,
I guess I'm drowning in my own tears

気が付くと私の目にはもう涙があふれてる。あなたが行ってしまってから、たくさん泣いた
自分の涙で溺れるくらいにね

I sit and cry, just like a child
My pouring tears are runnin' wild
If you don't think you'll be home soon
I guess I'll drown in my own tears

子どもみたいに座って泣いた、とめどなくどんどん涙が溢れてきて。すぐに私のとこに帰ろうってあなたが考えてくれないなら、私はたぶん自分の涙で溺れて死ぬんじゃないかな

I know it's true into each life some rain, rain must pour
I'm so blue here without you
It keeps raining more and more

知ってるよ、誰の人生にもたくさんの雨が降り注ぐってことくらい。(でも)あなたなしでは悲しすぎて、雨が止むことなんてないの

Why don't you come on home
Oh yes so I won't be all alone

(ねえお願い!)帰ってきて、そしたら私はひとりぼっちじゃない

If you don't think you'll be home soon
I guess I'll (drown in my own tears)

すぐ私のもとに帰ろうって考えてくれないなら、私はきっと(自分の涙で溺れて死んでしまうから)

Ooh, don't let me (drown in my own tears)
When I'm in trouble, baby (drown in my own tears)
Oh, yeah, baby don't let me (drown in my own tears)
I guess I'll drown in my own tears

涙でアタシを溺れさせないで。ねぇあなた、どうかもう苦しませないで。どうかお願い、私を涙で溺れさせないで。
(このままでは)自分の涙で溺れ死んでしまうから

******************


この曲と Into Each Life Some Rain Must Fall には共通点がありますよね。「誰の上にも雨は降る。悲しくて涙にくれるような日が」というところ。違うのは、思いつめた感じです。

こちらはどちらかというと Gloomy Sunday 寄りのネガティブさが濃い歌詞になっています。曲調のおかげで薄まっていますが。

電気が走るところの「YOU」は「ねえお願い帰ってきて!」のときの呼びかけです。レイ・チャールズは少しヒステリックな姿をイメージしてアレンジしたのかな。悲痛感が増しますね。


個人的な感想を挟んでしまいますと、歌詞をよく知る前は「YOU」のところをソウルの醍醐味というかかっこいい!という印象だけで聴いてたんですよね。知ってからは「僕」を想って胸がギュッとなる感じに変わりました。お母さんは何を思って歌っていたのかな。

1997年にお母さんが二度目の"コト"を起こしたあと「僕」がリスト作りに固執する場面で「母さんがもう父さんを愛していないんじゃないかと思い始めていた」と語るんですが、お母さんの心が"ここにない"感じ、この曲の歌詞を眺めていると感じてしまいますよね。

お母さんの場合「YOU」は特定の恋人というよりも、運命の神様みたいな存在に向かって語り掛けているんじゃないかと個人的には感じたんですよね。

というか個人的には、この曲の歌詞とお母さんの不調は無関係なんじゃないかと予想しているんですが、それについてはまた別の機会に。


Portland center stage


******************

EBT2023のツアーも本日10月21日と22日の松本公演で終わってしまいますが、こちらは細々と続けていきます。回を重ねて鑑賞するうちに思うところが変わってきたので、これまで投稿したものも少しずつ整理する予定です。

次回のツアーは数年後というお話を、先日の名古屋公演で佐藤隆太さんが明かされていたので、その公演の邪魔にならないように書き記していきたいと思っています。

ここまで読んでくださりありがとうございました☆



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