シミュレーションで陸上養殖支援 「まずはサケとマスから」スタートアップ・AQSim
北大の学生らが立ち上げたスタートアップ・AQSimは同大学の研究者の養殖シミュレーションの技術を使い、陸上養殖を支援する事業を4月ごろから開始する予定だ。まずはサケとマスから始め、今後はカレイやホッケにも手を伸ばしたいと話すのは経営顧問の菊地優さん。AQSimの事業内容について取材した。
――AQSimという会社が始まった経緯を教えてください
起業のアイディアを立案し、社会実装を目指すことを目的に、北大などが2022年の秋、北海道Society5.0みらい創造ワークショップを開催しました。その知らせを聞き、以前から親交のある高橋勇樹助教が研究している養殖シミュレーションを生かしたビジネスモデルを作れないかと思い、参加したのがAQSimの事業の始まりです。
個人的な考えですが、天然の魚介類をとる漁業が今まで主流だった理由は、栄養素としてのタンパク質の獲得にプラスして、漁師さんがお金を得る手段として最も適していたからです。しかし、昨今の温暖化により漁業を取り巻く環境が変化しており、安定的にお金を稼ぐ手段として、陸上養殖の重要度は高まっていると思います。
――そもそも養殖シミュレーションとはどのようなものなのでしょうか
シミュレーションでは餌や水中の酸素量、水槽の大きさなどを考慮して、お客様に収益化できるかをご提案します。また、単にモデルを作るだけではモデルの信頼性を担保できないので、北大の七飯淡水実験所などで実際に魚を飼って、モデルの再現性を実際に確かめています。
さらに養殖シミュレーションでは、養殖施設の建設や整備に必要な費用の算出のみならず、設備のランニングコストも考慮しています。なぜなら、初期投資の施設を作ったり整備したりする際には補助金を使えることが多いものの、それ以降の餌代などの定常的な費用がいくらかかるのかが不明な場合が多いからです。
また、出荷時期を調整するのも非常に重要です。例えば、12月のお歳暮の時期の贈答用の魚を生産したいと考えた場合、養殖シミュレーションを用いることで魚の成長をコントロールすることができます。計画的に養殖ができるのが魅力です。
現在、想定している養殖シミュレーションの魚種はサケとマスだけですが、今後はカレイやホッケなどの北海道の魚でも開発したいと考えています。
――養殖モデルにはどのような変数があるのでしょうか。またサケやマス以外のあまり泳がないカレイのモデルを作る場合、どのようにするのでしょうか
モデルの中身ついては特許に出願中なので詳しく言えませんが、先行研究で分かっている魚のパーソナルスペースや遊泳速度、成長速度などを数式で表現しています。
カレイをはじめとした、サケ・マスと泳ぎ方などの生態が根本的に違う魚種でも、遊泳速度などの変数を調整することで、モデルを開発できると考えております。
――AQSimが販売する養殖シミュレーションに関する商品は、具体的にどのようなものなのでしょうか
弊社が提供する養殖コンサルに関する商品は、2種類が考えられます。
1つ目はお客様から依頼を受けて、私たちが養殖シミュレーションの計算をしてご要望に沿ったプランをご提案するという、お客様を全面的にサポートするという商品。この商品は2024年4月ごろからのご提供になる予定です。
2つ目はAQSimの養殖シミュレーションができるソフトウェアに、水槽に入れた魚体の大きさや出荷時期などの数値を自分で打ち込み、養殖計画を立てられるというものです。こちらの料金体系は月額いくらといった、サブスクリプションになると思います。1つ目と比べて人件費等を抑えられるので、お安くなりそうです。
――養殖コンサルを世間に発表して、どのような反響があったのでしょうか
北海道新聞が養殖シミュレーションを報じたことに加えて、私たちが各方面に売り込んできたので、北海道の自治体などが興味を持ってくれたと思います。しかし、僕らのビジネスモデルがまだ定まっていないので、先方はどのようにお金を払ったらいいのか、わからない状態です。
そのため、あと数カ月間は、予算を確保できる自治体やベンチャー企業などが、AQSimと一緒に課題に向き合うという形になると思います。
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