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2020/06/17 「モノ」としての本の楽しみ
ここ数年、初回の授業では自己紹介として、自分の略歴と好きなものについて話をして、本を紹介するという型が定着している。
今年度生徒達に紹介したのは2冊。筒井康隆『残像に口紅を』(中公文庫)と泡坂妻夫『生者と死者―酩探偵ヨギガンジーの透視術』(新潮文庫)だ。今年度担当するのは日常の学習ツールとしてタブレット端末を使っている学年で、電子書籍で読書をする生徒もいるので、あえて「モノ」としての本を楽しむことのできるものを紹介することにした。
前者『残像に口紅を』は、文庫版はなんの変哲もない文庫だけれど、最初に刊行された単行本は後半のまとまったページが袋綴になっていた。その袋綴の包みには「ここまで読んで面白くなかったという方はこの本を送り返してください。代金を返します」と書かれていたことを紹介する。電子書籍ではできない遊びだ。日本語の五十音から一音ずつ消えたらどうなるかに挑んだ実験小説。
後者『生者と死者―酩探偵ヨギガンジーの透視術』も袋綴を利用した仕掛けのある小説だ。袋綴のまま読むことのできる短編小説は、袋綴の部分を切り離すことでつながる長編小説の中に溶けてしまう。もちろんページ番号を控えておけば短編もあとから読める。とはいえ、同じ地の文を共有しながら、異なる登場人物の小説が書かれるのだからすごい話だ。著者の泡坂妻夫は専用の原稿用紙を使っていたというが、無茶な遊び心とそれを実現する力技に感心しきり。
司書さんの話によると、中学生が『残像に口紅を』を借りにきたらしい。読んでおもしろがってくれることを願う。
みんなそれぞれに自分好みのおもしろいものと出会い、その喜びを分かち合えたら素敵なことだ。
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