「mt」に学ぶ商品開発のあり方
ここのところ、自分の周囲で非常に大きな
キーワードとなっている言葉がある。
それは、
「エフェクチュエーション(Effectuation)」
という考え方、思考様式だ。
私自身がこの考え方と出会ったのは、
少なくともこのnoteの上では1年半ほど前、
その後不定期ではあるが何度か取り上げる
機会があった。
直近では1月3日に『因果論の限界』の
タイトルで書かせてもらっており、
その後もオンラインの勉強会等を通じて
学びを深め、細々ながら自らの実践へと
つなげているところだ。
先般、マスキングテープのB2C市場を
切り拓いた「mt」ブランドの商品開発が、
「エフェクチュエーション」的な事例で
あるという趣旨の話を伺った。
この「誕生ストーリー」を語る公式のページは、
以下のような文章で始まっている。
この「3人の女性」というのが、当時B2Bで
しか売られていなかったマスキングテープの
ファン、というよりも「オタク」であり、
彼女たちの熱意にほだされる形で、工業用
テープメーカーである「カモ井加工紙」が
重い腰を上げたというのが実態だった様子。
マーケティングの観点で商品開発を語る場合、
非常にざっくりと表現するならば、
・市場におけるニーズをリサーチで見極め、
・どのようなセグメントのどんなお客様に
絞り込んで価値提供をするか検討し、
・自社のリソースでどのようにその価値を
実現するか戦略を練り、
・具体的な商品設計へと落とし込んでいく
というような流れとなる。
こうした論理的な手順を踏んでいく考え方を
「コーゼーション(Causation)」と呼び、
「エフェクチュエーション」と対比される
ことになる。
言い換えると、「因果論」、望むべき結果を
生むために、論理的にさかのぼって、その
原因を作り出していこうとするわけだ。
これに対する「エフェクチュエーション」は、
「実効論」、すなわち論理であれこれ考える
より先に、まずは実行してみて、効果が出た
ものを選び取っていこうという考え方である。
語弊はあるが、「出たとこ勝負」と言えなく
もない。
マスキングテープの場合、
地味な工業用製品をもっとかわいらしく、
一般の消費者にも使えるものにしたい!
という熱い想いを持ったその3人の女性の
登場が、カモ井加工紙にとっては想定外の
出来事であった。
その想定外の事象を、半信半疑ながらも
テコとして活用した結果、思いもよらぬ
大きな金鉱脈を掘り当てたというところが
「エフェクチュエーション」的な展開で
あったという話である。
この「エフェクチュエーション」と
「コーゼーション」、どちらか一方が
正しくて、どちらかが間違い、という
二者択一ではない。
むしろ、両者が相補い合って、よりよい
成果へと近付いていくことができる。
そのように捉えるべきだろう。
工業用テープの予想外の使い方、
これはメーカー側がウンウンと唸って
理屈で考えてみたところで、恐らくは
考えもつかなかったはず。
「セレンディピティ」とも言い表せそうな
想定外、偶然の産物。
それがもたらされた時に、
面白い!
すごい!
行けるかも!
というオープンなスタンスで接し、
良いアイデアとして取り入れる。
これぞ正にエフェクチュエーション。
そこから先は、むしろコーゼーション的な
アプローチで、必要なことを粛々と、
ロジカルに、進めていく段階へと移行する。
そして、商品開発の段階に応じて、
因果論と実効論を行きつ戻りつしながら
前へ進む。
この「mt」の事例は、確かに
「エフェクチュエーション」の事例だと
評価することも可能だろう。
しかしながら、私が真っ先に思い出したのは
「プロシューマー」という言葉であった。
これは、未来学者のアルビン・トフラーが
提唱した概念で、
「プロデューサー」×「コンシューマー」
の造語である。
即ち、農業社会では生産する側と消費する側が
一緒だったが、工業化社会になってこれらが
ハッキリと分かれる・分業するようになり、
それが「第三の波」で再び同化するという
主張である。
(新品だと15,002円と出ていて驚愕!
中古なら400円前後で買えますね。)
「mt」の事例は、正にコンシューマーが
プロデューサー側に直接アドバイスし、
更にはプロデューサー側と一体化して
モノづくりを行った点で、3人の女性たちは
「プロシューマー」そのものと言える。
もう一つ加えるなら、「mt」の開発は
「オープンイノベーション」の事例である
とも言えるだろう。
この言葉も昨今あちこちで必要性が声高に
叫ばれているため、ご存知の方も多いと
思われる。
要は、製品開発などの場面において、
何でも「自前主義」でやるのではなく、
広く社外の知識、技術などを取り入れて
実施しようとする考え方のこと。
社外から持ち込まれたアイデアを、
素人発想だからとバカにせずに、
最終的に商品化してヒットさせた点で、
正にオープンイノベーションの事例だと
いうことができる。
今回取り上げた「mt」の事例を通して
改めて感じたのは、ビジネスの成功事例
というのは、様々な理論的枠組みで
後付け的に解釈しやすい、ということ。
「エフェクチュエーション」でも、
「第三の波」「プロシューマー」でも、
「オープンイノベーション」でも、
どれに当てはめてみても、それっぽく
聞こえるではないか。
いずれにしても、自分が取り組む事例に
当てはめてみたときに、高い再現性が
担保されそうかどうかが重要。
そして、理論を聞いただけでなく、
実際にアクションを取ることが最重要。
大分長文になったので、この辺で。