インモルテルの花束
日曜日の夜といえば大河ドラマ。
『青天を衝け』は、主人公の
渋沢栄一が、民部公子(徳川昭武公)
と共にパリに滞在していたところ、
「ご一新」が起こってパリからの
帰日を余儀なくされるという局面を
迎えたところだ。
帰国する一行に、フランス側から
渡された黄色い花束。
それは、「不滅」を意味する
インモルテル。
粋な計らいである。
この場面を見て、私は大層驚いた。
「インモルテル」と呼ばれた
その花に、なじみがあるからである。
かつて在籍していたロクシタンの
スキンケアシリーズに使われている
原料、そしてシリーズの名前その
ものが、「イモーテル」なのだ。
つづりは「Immortelle」。
黄色くて小さな花を咲かせる。
実のところ、本物に近付くと、
カレーのようなにおいがする。
プロヴァンスで本物のイモーテル
をガーデンで見た際に、
加齢臭ならぬカレー臭が一帯に
フワッと漂ったのが懐かしい。
「不滅」という言葉は、
この花が刈り取られてもその
鮮やかな黄色を失わずにいる、
その姿から来ている。
実際、ロクシタンの店頭では、
乾燥したイモーテルの花を
ディスプレイに活用している。
ロクシタンでは、様々な商品を
取り扱っているが、どれも
何らかのシリーズに属している。
そして、そのシリーズは、
基本的に原料の名前に由来する。
アフリカに生えるシアの実から
採れる、シアバターという保湿に
優れた成分を使ったボディケア
シリーズは、「シア」。
ヨーロッパの王族の4人姉妹が
それぞれ別々の品種のバラを
好んだという伝説に基づいて、
その高貴な4種のバラの香りを
絶妙にブレンドした香りの
「ローズ」。
爽やかな柑橘系ハーブ、
まるでレモンのような香り、
恋に効くなんて話もある、
夏に欠かせない「ヴァーベナ」。
サクランボの香りが、
まるで初恋のような甘酸っぱい
青春を思い出させる香りの
「チェリーブロッサム」。
そして、「不滅」「不死」を
意味する黄色い花のハーブ、
「イモーテル」。
こんな具合に、それぞれの
原料に着目し、その原料が
持っている文脈、ストーリーを
掘り出しては紡ぎ上げ、
一つひとつ世界観を丁寧に
構築する。
その世界観の中で語られる
一つひとつの商品は、
何とも魅力的に見えるもの
なのである。
ともすると、商品の実力以上に
魅力的に見えている、
そう言えるかもしれない。
それでも、人は単にモノを消費
するわけではなく、モノに付随
するコト=ストーリーも一緒に
消費しているのだから、
それでよいのである。
そうやって消費した
「モノ+コト」は、
単なるモノに比べてずっと
付加価値が高まるのだ。
インモルテル=イモーテルが
大河に登場したことで、
ついロクシタンのことを
思い出した。
最近ご無沙汰なので、
定点観測がてら、たまには
足を向けてみようと思う。