小布施町の「結果観光」という考え方
長野県の北の方に、小布施町という
人口11,000人程の小さな町がある。
「おぶせちょう」ではなく、
「おぶせまち」と読ませるそうだ。
この小布施、葛飾北斎が生涯のうち
4度も訪れては、長期滞在して絵を
描いていったらしく、現在「北斎館」
という名の素晴らしい美術館が
オープンして人気を博している。
この小布施町、何と年間の観光客が
100万人にも上る。
「北斎館」も、もちろん寄与している
のは疑いないところだが、それだけ
では説明できない数である。
この小布施町に生まれ育ち、文屋と
いう出版社を経営されている、
木下豊さんという方がいらっしゃる。
この木下さんが、私の知人の主催する
勉強会でお話しされるということで、
本日の午後ZOOMに張り付いていた。
文屋さんは、私もここで数回紹介した
伊那食品工業の塚越寛名誉会長の
著書を出版されている会社である。
最近では、元リッツ・カールトンの
高野登さんと組んで、塚越さんの
「年輪経営」コンセプトを広めるべく
オンラインスクールを始められるなど、
活動の幅を広げていらっしゃる様子。
今日の勉強会では、木下さんが実際に
追求されている「理念経営」の全貌を
説明してくださり、
その上で具体的な事例として、
・伊那食品工業
・小布施町
・小布施牧場(ご子息が経営)
について、様々なエピソードと共に
お考えを語ってくださった。
沢山メモを取ったが、中でも特に興味
深かったこととして、小布施町の事例
について書き記しておきたい。
先に、観光客が100万人に上るという
ことを書いた。
どこにそんな魅力があるのか。
木下さんも指摘していたが、国宝が
あるわけでも、有名な寺社仏閣がある
ということでもない。
当然ながら、ディズニーランドやUSJ
のようなコンテンツがあるわけでも
ない。
そもそも、観光にかける町の予算は
ほぼゼロだという。
それでも観光客が来る、その秘訣は
どこにあるのだろうか。
それを解き明かすコンセプトが、
「結果観光」という言葉。
「目的観光」という言葉を対置する
形で挙げていたが、こちらは観光客を
呼び込むために様々な施策を行うと
いう意味合い。
明確に、観光客を増やす目的、意志を
持つコンセプト。
これに対して、「結果観光」という
のは、観光客を増やしたいということ
ではなく、全く別のことを優先して
やった結果、観光客も増えた、そんな
考え方を指している。
では、何を優先したかと言えば、
住民の生活なのである。
そう、住民が幸せに暮らせるように、
それを第一に考えて、街並みを美しく
したり、日常生活を気持ちよく過ごせる
ようにとやってきた結果が、観光客に
とっても魅力的な場の構築につながった
ということなのだそうだ。
町の予算はなかったものの、町に存在
する企業、具体的には小布施堂などの、
名産である「栗」を使った和菓子屋さん
たちが様々な広告展開をしており、
それが町の認知向上や、ブランド力の
醸成にかなり寄与しているということも
指摘されていた。
とはいえ、一番は、住民の幸せを第一に
考えた町の経営にあるという点は間違い
ないところである様子。
これは正に、伊那食品工業が従業員を
第一に考えていることとも相通じる。
お客様ファーストではなく、
従業員ファースト。
観光客ファーストではなく、
町の住民ファースト。
結局、従業員や住民を大切にすることが、
彼らを通してお客様を大切にすることに
つながり、「善の循環」が起こって
その会社や町が豊かになっていく。
そういう実例が、本当に存在している
のは、極めて尊いことだと思うのだ。
有り難い話を聞かせてくださった
木下さんに改めて感謝である。
こちらが、文屋さんの編集による、
塚越さんの最新刊。
本も勿論素晴らしいので、塚越さんや
伊那食品工業にまだ触れたことのない
人には、是非とも読んでいただきたい
ところだ。