常識を「創造的」に破壊する
かれこれ二十数年マーケティングに
携わっている私のキャリア初期の頃、
立て続けに二人ほど、クレジットカード
会社でキャリアを築いた上司にお世話に
なったことがあります。
お一方はマスターカード、
もうお一方はアメックス、
いずれも外資系のカード会社ですね。
実績重視の厳しい環境下で鍛えられた
上司でしたが、私に対しては非常に
温かく接していただいたことを
今も覚えています。
そのどちらの上司に教わったのか、
今や定かでないのですが、
セゾンカードの「中興の祖」とでも
いうべき林野宏さんの仕事ぶりを
褒めちぎられていたことが、
未だに記憶に残っていました。
クレディセゾン会長CEOである、
林野宏さんのインタビュー記事が、
『致知』2024年1月号に載っていた
ので、簡単に紹介させてください。
西武百貨店に入社して順調に
キャリアを積んでいた林野さん。
そんな企画書を出したところ、
クレディセゾンの前身である
西武クレジットに、
営業企画部長として出向することに
なりました。
1982年、39歳の時だったそうです。
カード会社と一口に言っても、
実は多様な系統があります。
クレディセゾンは「百貨店系」。
他に、「銀行系」や「信販系」といった
金融系もありますし、「鉄道系」、
「航空系」、「自動車系」のような
交通系も存在します。
括り方は違いますが「外資系」もあり、
それぞれ独自の特徴を持っています。
当時は、「銀行系」がかなり強かった
時代でした。
林野さんが、彼らの内情を調べたところ、
銀行からの出向者でトップが固められ、
そのトップが本社に戻ることばかり
気にしている連中だと確認。
しかも、銀行系カードの入会基準が、
一部上場企業勤務の課長職以上、
勤続10年以上で持ち家ありが必須という、
今からすると時代錯誤な条件を設けて
いたのです。
最も百貨店の顧客になりそうにない
方々が入会基準となっているような
競合に負けるわけがない。
そのように確信して、着任後すぐに
「日本一のカード会社をつくる」と
宣言したというのですから、
実力と度胸の両方を兼ね備えた傑物で
あることが伝わってきますよね。
百貨店のお客様は、ほぼ女性。
家計の財布のひもを握っているのも、
大半は女性です。
それまでの常識からすれば、
女性にカードを発行するのは
「高リスク」となっていたわけですが、
目の前の現実を見れば、
女性こそがカードを最も頻繁に
使ってくれるであろう「金の卵」
だったわけです。
女性をターゲット顧客にするならば、
勧誘する側の社員も女性の方が上手く
行くのではないか。
そんな仮説を元に、当時は専業主婦が
圧倒的に主流だったところを、
セゾンカウンターで働いてくれる
優秀な女性をたくさん採用して、
大いに活躍してもらったとのこと。
サインレス決裁の導入も、
お客様の不便を解消するべく、
クレディセゾンが業界に先駆けて
チャレンジをしました。
当初はクレジットの協会に呼び出しを
食らい、散々懸念や批判をぶつけられた
そうですが、合理的な解決策を提示
して難を乗り越え、今ではどのカード
会社でも当たり前の機能となっています。
業界の常識を、常識のまま終わらせずに、
お客様の現実を見据えた上で
「創造的」に破壊し、その結果として
問題解決をして来た林野さん。
80歳を過ぎてなお、一線で活躍される
バイタリティーもさることながら、
常識に果敢なチャレンジをする姿勢は、
是非とも大いに見習いたいと思います。