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あの日、偶然入ったヴィレヴァンで買った世界鬼のコミックスが今の俺の人生へと繋がる特異点なんだ。

インターネットのイの字も理解していない頃。

高校生のあの頃。

ボクの時代の高校生は、今現在に至るSNS時代の始まりの世代だった。

そう言っても良いだろう。

ヒカキンだってまだ無名だった。

スギちゃんがまだワイルドで

きゃりーぱみゅぱみゅがナウかった。

それまでと何も変わらないようでいて

だけど確実に『何か』が始まっていた。

当時の周りの同級生、後輩先輩達のケータイスマホ所持率は95%ほど。

持っていなくても珍しがられはすれど5%程はいる。

20人に1人くらいはいた。

そして、その1人だった。

インターネットというのはおもしろおかしいオモチャ箱だと思っていた。

まぁ見ようによってはそうなのだが、数々の炎上やら陰謀やらそこら中に溢れる闇を知らないし、理解していなかった。

ケータイを持っていないボクはインターネットをする為にたびたび市内の図書館へ行き、そこでおもしろフラッシュだとか脳にくる画像だとか都市伝説だとかを調べる当時としては少しいやだいぶ遅れた男子高校生だった。

それでも市内の図書館にインターネットが開通しただけまだマシで、それ以前は本当に何もなかった。

本当に、何も、なかった。

だからこそ、インターネットというシロモノを神聖視していた節があった。

青春真っ只中の中、そんな青臭いような穿ったような歪んだ思想を持っていた。

そんな高校3年生のある日、

高校生の部活の仲間達4人程、具体的には1年1人と2年1人同級生の3年2人と共に、一緒に新しく出来た大きなイオンへと行った。

それなりに遠い道のりを、今の年齢では少し躊躇う距離を自転車で向かった。

何で行こうと思ったかなんて覚えていないが、新しい大きなイオンというだけで、あの当時は行かざるおえない程に渇望していた。

ゲームセンターで遊び、少しペットショップに入り、フードコートでペッパーランチという見慣れぬ食べ物を食べた。

なんて事はない。

青春と言えば青春のありふれた1ページ。

ありふれ過ぎてこのまま帰れば今記憶していないであろう。

そう思える程の。

だが運命の歯車は

突如として狂い出す。

異様な空間が目に付いた。

何やら怪しい甘い匂いもした。

入ってはならないような

しかし入ることは咎められないような

そんな不可思議な空間。

高校3年生。

後輩の1年2年に対し、今で言うイキリでもって

「ちょっとあそこ入ろうゼ❗️」

そんな感じで言って入って行った。

後輩の2年生は慎重な性格で入ろうとはせず、同級生2人は真面目なのでヴィレヴァンの雰囲気を察してか怪訝な表情を浮かべ断るが、意外にも1年の後輩だけがノリノリで共に入って行った。

異世界だった。

所狭しと置かれた今まで見たこともない品物の数々。

そのどれもが

刺激的で

退廃的で

ショッキングピンクの怪物のハラワタに飛び込んだような恐ろしさと物珍しさに溢れていた。

今となってはどうかと思うが当時のヴィレヴァンの店内には普通にちょっと青少年に見せられないモノも堂々と陳列されていた。

それらもあって禁制を重ねていた男子高校生にとっては余りにも眼前の景色は強烈だった。

怪しげな服。

怪しげな雑貨。

怪しげなお菓子。

怪しげなオブジェ。

そして

怪しげな本。

「先輩❗️先輩❗️」

外で待っている筈の2年の後輩が肩を叩き呼んでいた。

どうやらなかなか戻ってこないボクを呼びに来たらしい。

「もう帰りますよ。」

そう言われ、もう少しいたい気持ちを抑えこの魅惑の空間から出る事にした。

世界鬼の1巻と2巻を買って

この空間から何かを持ち帰らなくては。

その強迫観念のようなモノがボクを突き動かした。

その時、ヴィレヴァンでは世界鬼1巻を試し読みとして読めるようにしてあったのでその続きを見たいと思ったのもあり購入をした。

読みやすい類とは言えコミックス1冊を読み終える程の時間以上をボクは堪能していたのだ。

そりゃあ臆病な方の後輩も呼びにくる。

ちなみに1年の後輩は少し店内を見回して興味がないと3年の2人とゲーセンへ向かい遊んでいたらしい。

2年の後輩だけボク待ちに置いて。

その後、再びフードコートで、次はデザートにパフェを食べながら世界鬼のコミックスを読む。

そしてそこから『裏サンデー』というマンガサイトを知り、今の人格を形成していくのであった。


世界鬼
モブサイコ100
美少年ネス
ゼクレアトル
懲役339年
Helck
ケンガンアシュラ
寿司 虚空編

脳が灼かれるような先鋭的なマンガの数々。

それらに夢中になった。

何よりWebサイトでインターネットでマンガを読むという経験が初めてだったので紙では無い読漫に熱中し、高校卒業後に念願のスマホを手にしたボクは毎日それらの更新を待ち望んでいた。

この『裏サンデー』において後にアニメ化したりする作品もある中で、特に気になり興味をそそられたのが

寿司 虚空編

であった。

それは異質な裏サンデーのマンガの中でも異質で

というよりも異常で

というよりもマンガと呼べる中でも異質で異常で

こんなマンガがあってもよいのか?

と。

寿司屋の大将と板前と突飛に発生する胡乱な存在達が支離滅裂荒唐無稽に巨大数を敬う。

こんなマンガがあってもよいのか?

と。

こんなマンガを描く人間はなんなんだ?

と。

こんなマンガを描く人間と繋がる人間はなんなんだ?

と。

こんなマンガを描く人間の周りの世界はなんなんだ?

と。

見えなかった、見ようとしなかった、見ないようにしていた世界が目に映るようになった。

深く深く深く知る毎に、自己を形成していた世界の輪郭が確実に歪んでいった。

そして紆余曲折運命転換エトセトラエトセトラ

書ける事。

書けない事。

様々があった。

その度に

あの日、偶然入ったヴィレヴァンで買った世界鬼のコミックスをキッカケに

変わった価値観が

浮かんだ選択肢が

歪んだ判断基準が

その度に

それらが価値を見出し、

それらが選択を選び、

それらが判断を決め、

道を誤らせた。

道を違わせた。

道を作らせた。

それらに対し、後悔はしていない。

正解も間違いもまだ分からない。

何も分からないがただ今分かること。

それは

ボクは今、ここにいる。

ボクは今、この道を歩んでいる。

そして

今の、俺がいる。

今の、俺はこの道を歩んできた。

だから

あの日、偶然入ったヴィレヴァンで買った世界鬼のコミックスが今の俺の人生へと繋がる特異点なんだ。

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