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お腹が痛いのはどこまでガマンするか? 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2024年9月号

今年に入って“なんとなく診療所でよく見るな〜”になっているのが「腹痛」です。お腹が痛くて受診されるのは総合内科では一般的です。ヒトを含む哺乳類の腹部は沢山の臓器、組織、機能が集まっていますので、簡単に網羅できるものではありません。ここ開業医のひとりごとでも8回、色んな場面で腹痛が現れています。それらも一例であるように腹痛はあらゆる病気の症状として現れます。

「痛み」は感じている本人にしかわからないもので、客観的に評価不可能な症状です。また、その感じている痛みに対してどのくらい耐性があるかは大変個人差があるものです(註1)。大まかに分類すると、「ちょっと痛いから大丈夫」、「やっぱり痛いから医者に診てもらおう」、「すごく痛いから病院へ行こう」、とこのように大体3段階に分けられるのではないかと思います。ただ、この痛みの度合いが人によるのですね。医学生だった時、救急外科の教授の授業で一番記憶に残っているのが次の言葉です:
「ブラジルは多民族国家であることを常に念頭におくこと。痛み方に差が大きい。つまり、民族や文化によって痛みの捉え方や表現が違う。いかにもイタリア系とわかるオバチャンが救急で“痛い痛い”とワアワア騒いでたら、まあちょっとは痛みもあるのかなと思ってもよい。しかし東洋系の男性が少しでも痛い…と言ったらこれは大変痛くてヤバいはずなので即処置が必要である。(註2)」。

『正にそのとおり、完璧に的を射た教えですな』

ではどのような仕組みでお腹が痛くなるかまずみてみましょう。

・内臓そのものの痛みである「内臓痛」
腹部内にある臓器が痙攣したり、破損するような状況が原因。痛み方は鈍痛、波状(行ったり来たり)、場所が漫然としてはっきりしない。

・腹腔を覆っている腹膜や横隔膜の神経が刺激されて現れる「体性痛」
痛み方は刺すような鋭い痛み、持続的で歩行時の振動や打診・触診で痛みが増強、場所が明確。

・内臓の痛みが脊髄神経を刺激し、それに関連した皮膚の部分が痛みを感じる「関連痛」
痛み方は刺したり焼けたりするような鋭い痛み、場所は必ずしも腹部ではないが明確。

時間軸ではいつから、いつ、いつまで痛むか。時間が経つにつれて悪化していくか、軽減していくか。食事や生活活動と関連するか。痛み以外に他の症状(音がする、お腹が張る、下痢や便秘、血便や粘液便など大便の変化がある、排尿困難や血尿など小便の変化がある、不正出血や性交痛など婦人科系の症状、等)があるか。などの症状や愁訴(患者が訴える症状)の組み合わせでどの臓器に問題があるのか見当をつけながら臨床では診断を進めていくわけです。また、腸管神経系と呼ばれる腸全体に広がる神経は脳と脊髄の次に数が多く、第二の脳と呼ばれるくらい精神状態に敏感に反応します。したがって精神の不調で腹部に痛みがでることは多々あり、これは関連痛の一種になります。

腹痛の多くは何もしない、あるいは簡単な市販薬を使う、で治るのはこのコラムの24人の読者様も経験があると思います。腹部には毎日何度も食べ物が入りそれに反応する臓器が複数あるので、それらの反応の兼ね合いで少しや短時間の痛みが出やすいのです。しかし、命に関わる腹痛はすぐに処置する必要があります。次のような一般的に発症してあまり時間が経っていなく(1週間以内)、「急性腹症」と呼ばれる状況は外科的措置が必要な場合が多いのでガマンしてないですぐに受診する必要があります:

  • 突然発症した腹痛

  • これまでに経験したことがない腹痛

  • とても痛く、耐えがたい腹痛

  • 時間が経つにつれて増してきた腹痛

  • 安静にしても6時間以上続く腹痛

  • 嘔吐、発熱、胸痛、下血、呼吸困難、意識低下が伴う腹痛

『ヤバい状態は個人差がある耐性に左右されるので、どうもおかしいなとか、ちょっとわからんなとか疑問がある場合は念のため診察を受けたほうがよいと考える』

次回は上腹部と下腹部に分けて色んな腹痛の原因疾患について展開していきます。

註1:痛み(疼痛)の定義や分類は2023年3月のひとりごと「毎日痛いのは生きてる証拠?」で展開しています。
註2:実際に見た症例が正にそれだった:腹痛を一週間我慢して救急搬送された日系の男性、単なる虫垂炎だったのが、虫垂が破裂し、膿をまき散らして大変な腹膜炎になり、長期入院になってしまった。早期に病院に来ていれば2泊くらいの入院で済んだのに…


秋山一誠 (あきやまかずせい)
サンパウロで開業(一般内科、漢方内科、疫学専攻)。
この連載に関するお問い合わせ、ご意見は hitorigoto@kazusei.med.br までどうぞ。
診療所のホームページ www.akiyama.med.br では過去の「開業医のひとりごと」を閲覧いただけます。

月刊ピンドラーマ2024年9月号表紙

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