第82回 実録エッセー『4年に1度のお祭りだもの』 カメロー万歳 白洲太郎 月刊ピンドラーマ2023年1月号
今日は2022年の12月11日。
この原稿が活字になる頃には、ワールドカップのチャンピオンも決まっているはずだ。
というわけで、4年に1度のワールドカップが開催されてから約3週間が経過し、ついにベスト4が出そろった。普段サッカーなぞにまったく興味を示さないボクとちゃぎのも、この時期だけはテレビに釘付けとなる。ブラジルに住ませてもらっているからには全力でブラジルを応援!と意気込むボクらは、パチモノとはいえ、色、サイズ違いで計4枚もの代表ユニフォームを購入し、万全の態勢を整えていた。6度目の優勝を目指すブラジル、勝てば国全体が活気づき、選挙で分断気味になっていた国民たちも、ひとつにまとまる気持ちが湧いてくるかもしれない。混乱続きのブラジルに明るいニュースを!
そのためにはなんとしてでもこの大会を制覇してもらいたかったのだが…。残念なことにベスト4進出を賭けた戦いでクロアチアに破れてしまったのである。
済んだことをグチグチいっても始まらない。が、実際、
『今回も優勝できないのではないか?』
という予感はたしかにあった。カメルーン戦で負けてしまったときも微かな不安を覚えたが、すでに予選リーグ突破は決定していたし、主力を温存していたという言い訳もきく。しかしその後のベスト8を賭けた韓国戦、スコアだけを見れば4対1で圧勝!という見方もできなくはないが、内容的にはイマイチであった。前半に4点取ったはいいものの、後半だけを見れば0対1である。にわかサッカーファンのボクがこんなことを書いても説得力はないが、とても王者の貫禄を見せつけるというサッカーではなかった。予選リーグの勝利においても同様、圧倒的な強さを見せるには至らず、目の肥えたブラジル国民もフラストレーションを募らせていたことであろう。
結果ベスト4進出を果たせず、不安が的中するカタチとなってしまったが、強豪国といえどそう簡単には勝たせてもらえないのが勝負の世界である。ブラジル代表の選手たちには心の底からお疲れ様と言ってあげたい。ボクに労られても嬉しくもなんともないだろうが。
それにしてもワールドカップ。スポーツとしてもエンターテイメントとしても超一流のイベントである。普段、サッカーにまったく興味のないボクとちゃぎのを夢中にさせてしまうのだから大したものだ。放送時刻も日中なので、早起きをしたり夜ふかしをする必要もない。ボクらのような自由業の人間にとっては全試合欠かさずに視聴することも可能なくらいである。
というわけで、ほとんどの試合を自宅のテレビで観戦している我々であるが、もともとにわかサッカーファンであるため、
『目の前のゲームを心の底から楽しむ』
といった類の集中力を発揮することはできない。試合が始まった途端に、ちゃぎのは編み物を開始するし、ボクはプシュッと缶ビールのプルトップを引っ張る。そしていそいそとポップコーンを用意したりするのだ。それだけならまだしも、ネットサーフィンや筋トレ、動画の編集など、およそ『ながら』で、できることはすべてこなそうとするのだから始末が悪い。
つまりボクらの楽しみは、サッカーの試合そのものというよりワールドカップ期間中のスペシャル感にあるのだ。試合がある日は朝からビールを飲んでいてもオッケーな雰囲気が醸成されているし、
『今日は試合があるからゆっくりするか』
とばかり、日がな1日ソファに寝転がっていることも珍しくない。言い訳は、
『だって4年に1度のお祭りだもの』
である。
そんなボクらもブラジル戦と日本戦だけは、真面目に視聴したつもりである。ブラジル戦に至っては、わざわざ近所のスーパーに繰り出し、地元人たちと一緒に応援したし、ブラジルがゴールを決めた瞬間、一番大きな叫び声をあげたのは何を隠そうこのボクだった。
しかし日本もブラジルも負けてしまった。ブラジルの敗退が決定したときは、地面に突っ伏してしまうほどのショックを受けたボクである。演技やパフォーマンスではなく、本当に悔しかったのだ。まるで心にポッカリ穴が開いてしまったような、そんな心持ちであった。
一方、友人の露天商たちも悲鳴をあげていた。なぜなら大量に仕入れた代表ユニフォームを売り切る前にブラジルが負けてしまったからだ。ベスト4に進出し、そのまま優勝ともなればユニフォームはさらに売れただろう。ブラジル人の中にもワールドカップに興味のない人はたくさんいるが、優勝戦線にまで絡んでくれば、そのような層にまでムーブメントが広がっていったはずである。
敗戦の翌々日の青空市場では、ユニフォームの在庫を抱えた露天商たちが虚空を見上げているのが印象的であった。
『ORDEM E PROGRESSO(秩序と進歩)』の国旗がトーナメント表から消えた今、ブラジル人たちのワールドカップは終わりを告げたといってよい。友人のラザロなどは『Eu fiquei triste. Não assistir mais(悲しい。もう試合は見ない)』と、W杯視聴からの離脱を宣言していたほどだ。
しかし我々はどうだろう?
ブラジルが負けてしまったのはたしかに残念だが、だからといって今後の観戦をやめるということにはならない。なぜなら4年に1度のワールドカップ。昼間からビールを飲んで、お菓子を食べて、一日中ゴロゴロしていても、なんとなく許されてしまう期間だからだ。これを楽しまずして、何を楽しめというのか。
最後に優勝国を予想してみよう。心情的には南米最後の砦となるアルゼンチンを応援したい気持ちが強い。
が、日本とブラジルを破ったクロアチアの勝負強さも侮れないし、台風の目となっているモロッコの躍進ぶりも凄まじい。とはいえやはり、最後に勝つのはフランスなんじゃないか?という気もしたりして。
とまあ、考えれば考えるほど分からなくなってくるが、ここは静かに結果を見守ることにしよう。
ワールドカップの決勝戦まであと1週間足らず。
ラストスパートとばかりにビールとお菓子を買い込むボクとちゃぎのなのであった。
月刊ピンドラーマ2023年1月号
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