実録エッセー『なぜブラジルでは「痴情のもつれ系トラブル」が多いのか?』 カメロー万歳 第90回 白洲太郎 月刊ピンドラーマ2024年2月号
先日、例によってヒマだったボクはスマホでブラジルのニュース動画を眺めていた。すると、
『別れを受け入れなかった男が女を刺殺』
とか、
『元カレが元カノの家に侵入し、元カノの現交際相手である男を銃殺』
とか、
『ダンナを毒殺しようとした妻が共犯の愛人とともに逮捕』
などといった事件がやたらと報道されている。
ワイドショー的なニュース動画のチャンネルなので、刺激的な話題ばかりを取り上げているのであろうが、それを差し引いたとしてもブラジルにはこのような『痴情のもつれ系トラブル』が非常に多い。
なぜそのように感じるのかといえば、ニュース動画の中だけでなく、身近なところでも日常的に色恋沙汰が発生しているからである。
その中でも1番インパクトの強かった事件は、ボクの顔見知りでもあるヒカルドが起こした傷害事件(ある意味では殺人未遂ともいえる)で、彼はなんと元カノのお姉さんを銃で撃ち、失明させるという衝撃的な事件を起こしてしまったのである。
ことの顛末はこうだ。
別れたあとも元カノに未練のあったヒカルド。もうどうにもならないほどに頭が煮詰まり、彼はある日、元カノの家に突撃することを決意。話し合いの展開次第ではぶっ放してやろうと企んでいたのか、はたまたただの脅しに使うつもりであったのかはわからぬが、懐には拳銃をしのばせていた。長距離トラックの運転手という仕事柄、護身用にもっていたモノであるらしい。
『ヒチエリ(元カノの名前)に会わせろ!』
と、元カノの実家の前でわめくヒカルド。
『会わせるわけないでしょ!ケーサツ呼ぶわよ!』
と、なんとか妹(ヒチエリ)を守ろうとする姉。
『面白えじゃねえか、呼べるもんなら呼んでみやがれ!』
『ピポパポ。あ、ポリシアですか?すぐに来てください。狂人が私たちの家の前で騒いでるんです』
『ててててめえ、本当に呼びやがったな!頭にキタ!そっちがそう来るならやってやろうじゃねえか!』
ズキューン!
というワケである。
その直後、我に返ったヒカルドはバイクで隣町へと逃走。親せきの元に身を寄せていたらしいが、ほどなくして地元の警察署へ出頭したのである。
ヒチエリのお姉さんは片目を失明。右腕にも障害が残るという大怪我を負ったにも関わらず、ヒカルドは1年かそこらで刑務所を出所。その後、地元で見かけたことはないが、付き合い始めた頃の2人のラブラブぶりを知っている者たちは皆、このストーリーの結末にド肝を抜かれたのである。
もし日本でこのような事件が起きたら、かなりの確率でワイドショーに取り上げられることであろう。
しかしここはブラジル。そのような事件など日常茶飯事的に起こっているので、ちょっとやそっとのことでは大手メディアに取り上げられることなどないのである。
それにしてもなぜ、ブラジルでは『痴情のもつれ系トラブル』が多いのだろうか?
自分なりに分析してみたのだが、まず第一に男女ともに非常に嫉妬深いことが挙げられる。
去年の7月から3か月間、ちゃむがひとりで日本に里帰りしたときも、
『なんでアンタたち一緒に行かないの?ひとりにしたら浮気されちゃうよ?』
と、様々な人たちに心配された。ブラジルでは常に夫婦同伴、どこにいくにもカップルが一緒に行動をするような習慣があるが、少しでも目を離すと、『どちらかが即浮気をする』という心配が関係の根底にあるらしいのである。
これではお互いを監視するために四六時中行動を共にしなければ安心できないばかりか、たとえ一緒にいたとしても、
『通りすがりの女の尻を見た』
『他の男に色目をつかった』
などという誤解、もしくは確信犯的な各々の行動による諍いが頻発するのであり、これではとても心の平穏など得られたものではない。結果、ワイドショーの見出しになってしまうような事件がそこかしこで起きることになるのだ。
ブラジル人の愛情深さは時に感心させられるほどだが、と同時にジェラシーの強さも並大抵ではないようである。もちろんすべてのブラジル人が嫉妬深いと言っているワケではないので、そこはご理解いただきたい。
そして最近の我々界隈のビッグニュースといえば、フェイラ(市場)仲間の中でもおしどり夫婦として有名だったパッチャンカとニヤ夫妻がついに破局を迎えたという驚くべき知らせであった。
パッチャンカは酒と音楽が大好きな、典型的なノルデスチーノ(ブラジル北東部出身の男)で、そのざっくばらんなキャラクターは仲間たちに愛されてはいたものの、離婚した前妻、そして現妻であるニヤとの間に11人の子を儲けるというセックスマシーンでもあった。金遣いは荒く、ニヤは相当な苦労をしたそうだが、そこは持ち前の明るさで頑張った。時にサボろうとするパッチャンカのケツをひっぱたき、夫婦一緒に青空市場で働きまくったのである。そんなニヤの活躍によって、パッチャンカの生活は支えられていた。が、しかし。
ある夏の日。泥酔したパッチャンカが、よしゃあいいのに自らの浮気を告白してしまったのである。それを聞いたニヤはもちろん激怒。過去にも浮気の前科があったパッチャンカにとうとう愛想をつかし、家を追い出してしまったというわけなのである。
その話を、やはりフェイラ仲間であるマリアから聞かされたボクらは驚きを禁じ得なかった。なにせパッチャンカとニヤは15年以上も連れ添っていたし、典型的なダメ夫とがんばり屋の妻という、これ以上にないコンビだったからだ。そんな2人がついに終わりを迎えてしまった。悲しそうに話すマリアの目には、今にも溢れ出しそうな涙がゆらゆらと揺れて光っていたのである。
ボクはそんなマリアを複雑な心境で見つめていた。なぜなら、マリアの夫であるホドルフィが市場で知り合ったブリンブリンの巨乳ギャルとカーセックスに興じているのを知っていたからである。なぜそんなことを知っているのかというと、ホドルフィ自身が自慢げに報告してきたからだ。このへんの脇の甘さも、浮気が発覚する大きな原因だと思うのだが、もちろん彼の火遊びをマリアに告げ口する気は一切ない。そんなことをすればひとつの家庭を崩壊させてしまうだけでなく、ボクとホドルフィ、そしてマリアとの友情も失ってしまうからである。
というわけで今回は、『痴情のもつれ系トラブル』がなぜブラジルで頻発するのかというテーマについて自分なりに考察をしてみたが、愛情深さと、それに伴うジェラシーの強さ、そして自らの浮気を他人に『自慢』してしまう軽はずみな行動。これらの要素が複合的に混ざり合ってスパーク。結果、そこら中のカップルが殺し合いを展開することにつながっているのではなかろうか。
家庭の平和が世界の平和につながると信じるボクである。ホドルフィの不貞行為の秘密はボクが責任をもって墓場までもっていくことにするが、そのような報告は金輪際しないでもらいたいものである。
皆さまも国際恋愛をする際は、くれぐれも気をつけて!
それではまた再来月にお会いしましょう!!
月刊ピンドラーマ2024年2月号表紙
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