糖尿病治療で医術を考える(5) どうして生活習慣が影響するの? 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2023年12月号
さて4月に開始した「我々人類の将来を脅かす糖尿病」のひとりごと第5弾です。途中、医療の危険性について道草しましたが、今回は糖尿病治療の原則である生活習慣の改善について考えていきます。1回目は「糖尿病とは」、2回目は「高血糖値の問題」、3回目は「糖尿病のなり方」、4回目は「治療薬」と展開してきました。3回目ではインスリンが不足したり細胞が糖を取り込む能力が低下する2型が生活習慣や食生活と関係があることを考察しました。
『3回目で考察したのになんでもう一度この話になるんや?』
はい、前回はどのような生活が血糖値を上げたり、インスリン抵抗性を生んでしまうのかを書きましたが、今回はどうしてその良くない生活習慣になってしまっているのかを考えてみます。暴飲や暴食、ストレスの多い生活がよろしくないことはこのコラムの24人の患者様も耳にタコができるほど聞いた話ですよね。炭水化物の過剰摂取とかも。糖尿病は現在大変有病率が高い疾患なので、行政・企業・医療従事者が注意しろ!予防しろ!とギャーギャー言っていますが、それでも全然減る傾向にありません。例えば子宮頸がんはギャーギャー言われて減少しています(註1)。これは特にWHOが力を入れ、子宮頸癌検診が普及してこの種の癌の予防が進んだからです。日本では血糖値異常を含むメタボ健診と呼ばれる医療政策まで法制化されましたが、糖尿病減りませんね…
糖尿病と食事の「内容」「食べ方」「順番」「適量」等の情報は書籍やサイトが山のように出ています。本にもなるくらいですから、この話はいくらでも書けますが、簡潔にまとめると次のようになります:
また、糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法が医療の常識となっていますね。毎日の定期的な運動、最低30分の早歩き散歩が理想的と言うことになります。この運動も、食後直後にできたら最高によろしい。筋トレとかではなく、有酸素運動。血行が良くなり、体内で溜まった老廃物の排出を促進し、骨密度をキープするし、良いことばっかりです。まあ、サンパウロ市などでは下手に普通の道路などで散歩していると、歩道の段差で足を捻挫したり、車やバイク便に轢かれたり、犬のウンコを踏んだりと色々危ないことも多々あるので良く考えて実行に移さないといけないですけど。
『早い話、前述のような食事をして、運動もした生活をしていると2型糖尿病にはまずならんぞ、と言うことですな』
反対に考えると、これらができない生活をしているから、我々は糖尿病を含むちょっと前までは「生活習慣病」と呼ばれる状況に至っているわけです。現実的には現在これを読んでいる読者様は今の生活、前述のようになるように改善できますか?このような生活をしている人はいないとはいいませんが、ごくごく少数でしょう。大多数ができない。したくてもできない。わかっていてもできない。わかっているけどしない。わかっていないからしない。このような世の中なので生活習慣病は減らないのだと、当たり前ですが筆者は愚考します。どのように血糖値が上がるとか下がらないとかインスリンが分泌されるとかされないとか、食事の仕方の解明、治療薬の開発などは「科学としての医学」です。このような科学の進歩はめまぐるしいですが、糖尿病が増え続けているのが現状です。
元々このシリーズは「医術を考える」がテーマで始めました。医術は英語でmedical artと言います。アート。つまり芸術。医学は英語でmedical science。つまり科学。科学と芸術の違いは前者は「だれがおこなっても同じ結果がでるモノ」、後者は「各個人の感性により同一性がないモノ」といえます。医術の場合は医学の知識を施術者(医者)の感性によりそれぞれ違う患者さんに使用することであると思います。糖尿病の場合、それぞれの患者さんに合った治療方法を探るのもひとつ、生活習慣がよろしくないからこそ糖尿病になっている方のどのあたりを変えられるかを探るのもひとつ。それ以上に医術であるのは、すでに発症している患者さんや予備軍の患者さんを糖尿病になる(が悪化する)状態から「遠ざかる生活習慣を取り入れる気にさせる」手腕こそが医術ではないかと思います。
月刊ピンドラーマ2023年12月号表紙
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