第6回「マリリア」 栗御殿への道 田中規子 月刊ピンドラーマ2023年9月号
私の農場の仕事を色々手伝ってくれているチリ人のマリリアとはSENARの農村ツーリズム研修で出会った。この研修は半年の間、毎月3日間の研修を続け、最後は模擬イベントを実施するというものだった。研修生の半分は日本人で、よく日本語で話していたため、マリリアはブチ切れて「全く何いうてるかわからん、私の悪口いうてるんか!」といって怒られた。しかし私がうちのモンブランプリンや焼き栗のマドレーヌを持っていくと、何か様子が変わってきた。なにもの?という目で見られはじめ、余ったプリンを自宅に持って帰っていいかと言ってきた。そのうちマリリアは私に合わせてポ語をゆっくりわかりやすい言葉で話してくれるようになった。
最後の模擬イベントは「日本食イベント」だったが、先生に「ちゃんとやらんとコロス!」と言われてみんな本気をだした。特に優等生のマリリアと妹のクラウディアは自宅から調理器具や調理台を車に積んでやってきて、私に「はいはい、次はなにやるんだ」と聞いては頼んだことを次々とこなす優秀ぶりであった。言葉はよくできない私なのに、彼女たちは私が何をして欲しいかを確実に理解してくれ、その時コミュニケーションというのは、語学だけじゃないのだと思った。そのとき出したたこ焼きはみんなに好評で、マリリアは早速タコ焼き器を買っていた。行動は素早く的確で彼女たちの働きがイベント成功に大きく貢献したのは間違いなく、そういう優秀な人に私も認めてもらえたのが嬉しかった。それ以後、私のイベントに手伝いに来てくれたりなど少しづつ交流を深め、いまではかけがえのない友達になった。
マリリアはアチバイア市の山の中腹あたりに「ペンギンの祠(Toca de Pinguin)」という名前の自宅で持続的循環型農場を目指しており、そこで貸ペンションも経営している。野菜畑があり、ヤギや豚を飼って野菜の残渣やペンションや自宅ででる生ゴミを家畜の餌にする。コストを抑え、環境に優しいという経済的環境的持続を考えている。SENARの研修でピンガも作れるようになり、自作ピンガも農場で飲める。妹のクラウディアはお料理が上手で自宅の野菜や果樹を使ってジャムや加工品を作っている。非常によく整備され、そして興味深い取り組みだ。経済的環境的持続性を考慮した生活サイクルは私も目指すところだ。夕陽がきれいにみえる山の中腹で、ピンガを飲んで自家製の食べ物を食べて優雅な壮年期を過ごす、というのが彼女の目標なのだ。
いまの土地を最初に買ったのはなんと18歳のときだった。「誕生日プレゼントもパーティーもいらないから現金をください」と家族や親類に毎年言い続け、そのお金で少しづつ土地を買い足し、60歳になった時には仕事をしなくても暮らしていける休める農場を作ろうと思った。若くして構想し、そしていま50代前半にして実現しており、なんと計画的なことか、と思いつきで生きている私には信じられない。
彼女はもともと建築関係の仕事をしており、仕事を減らしつつもいまも続けている。いま私の農場では農産加工施設建設を計画しており、彼女に設計を頼んでいる。どんなに設計料を払いたいといっても「いやいらんて。孤児院とかも無料で設計したし。必要な人のところで役に立てたらうれしいねん」と言ってくれる。情に厚く優秀な彼女とこれからも長くお付き合いできればと心から願っている。和牛や栗菓子を貢いでいこう。
月刊ピンドラーマ2023年9月号表紙
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