コレステロール、善悪対決? 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2024年7月号
前回悪玉コレステロールを下げるうたいで販売されていたサプリについてひとりごとしました。このタイプの健康補助食品を国に登録する方法の改定が検討に入ったほどの大事件になっています。診療所でもコレステロールが話題にあがることが増えているようです。医師から見ると、コレステロールや脂質異常症の情報がいっぱい世の中に出ているのである程度一般市民の皆さんもよくご存じだと思っていました。しかし、意外に誤解が多いと筆者が感じる今日この頃です。なので、前回の展開で「コレステロール」のひとりごとです。
まず名称ですが、発見された当時(1784年)はコレステリンと命名されています。胆石から摘出されたので、ギリシャ語のコレ(胆嚢)とステロス(個体)からきています。その後、アルコール体であることが判明したので、オールが付き、現在のコレステロールという名称になってます。
一番多い誤解が、「とにかく悪いものである」といった点だと思います。該当事件の製品のうたい文句であったり、食品売り場では「コレステロールゼロ」といった宣伝があったり(註1)、身体に悪いものだから摂取してはいけないモノの親分みたいな捉え方が多いですね。コレステロールは動脈硬化を起こす、血管が詰まる、と。ところが、コレステロールは生体の維持には欠かせない重要な物質なのです。細胞膜を作るのに必須、性ホルモンや副腎皮質ホルモン、ビタミンD、胆汁酸の原料です。なので、なかったら生きられません。コレステロールが欠乏すると、細胞膜が弱くなり、脳出血などが起こりやすくなりますので、減らせば減らすほど良いということではありません。ホルモンやビタミンの重要性は言うまでもありませんし、胆汁がないと食事で摂取した脂質の消化吸収ができません。
次に多い誤解が、食事でコントロールできるといった部分です。実は人体内にあるコレステロールの7〜8割が体内で産生されるモノであり、食事由来はわずか2〜3割なので、むちゃくちゃ頑張ってゼロコレステロールの食事にしたところで、その効果は限定的なのです。では食事は関係ないかというと、そうではありません。食生活を見直す重要性はものすごくあります。高脂血がみつかる人は食生活の乱れがあったり、肥満や糖尿病になる食事内容がほとんどです。
いわゆる高脂血と呼ばれる状況、つまり血中に脂質が多いと、その物質が血管にへばりつき、血管が詰まると考えられるのが妥当ですよね。しかし、近年の研究により、脂質が多いのが問題以上に、酸化による変性が血管壁に悪い影響をあたえ、血管内膜に取り込まれ、石灰化も起こし、動脈硬化と呼ばれる状態をつくることがわかってきています。したがって、以前は「高コレステロール=動脈硬化症」と考えられていたのが、正しくいうと「高コレステロールは動脈硬化症の危険因子」ということになります。なので、コレステロールの問題で最近の医学の考え方は、「高脂血症」ではなく、「脂質異常症」になってきています。つまり、高脂血は脂質の代謝の異常の結果であり、問題は“高値”より“異常”にウェイトが置かれるようになってきたわけですね。悪玉コレステロールが多い状態は脂質代謝が故障している結果なのです。
ここで、先ほどの食生活の問題が絡んできます。つまり、動脈硬化症になりやすい人は、「酸化が起こりやすい食事内容」が多く見られることだと理解してもらうのが重要です。食事制限で値がコントロールできるのは人体にある「中性脂肪、トリグリセライド」と呼ばれる脂質ですが、これは直接動脈硬化とは関係ありません(註2)。しかし、食生活や食事内容の指標になります。名称に脂肪と出ているので、油物と関係あると思われるのですが、油以上にカロリーの高い食品、つまり砂糖など糖質のほうが中性脂肪値に影響します。中性脂肪が高くなるような食生活をしている人は、結局体内で酸化が起こりやすい食品を好むので、コレステロールに関しても結局食生活も間接的に重要になってくると言えますね。
ではどのような食事が宜しくないというと、この辺りは山のように情報が出てます(註3)ので簡単にいうと:
『日常的に摂取する油で覚えもらいたいのが、「室温で固まる油」は飽和脂肪酸が多いから避ける;「室温で固まらない油」が不飽和脂肪酸が多く良い油』
ゴボウが多分一番有名だと思いますが、食物繊維は脂質の吸収を抑える効果がありますので、脂っこい食事には必ず野菜やキノコ類をとるように心がけて欲しいものです。この場合、順番が大事で、肉や脂身を「食べる前」に摂らないと吸収抑制効果はありませんのでご注意ください。
月刊ピンドラーマ2024年7月号表紙
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