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第85回 実録エッセー『田舎町のサーカス団』 カメロー万歳 白洲太郎 月刊ピンドラーマ2023年4月号

ある日、町を歩いていると、見慣れぬ大型テントが空き地を占有していた。色とりどりのカラーで装飾されたファンタジー調の大型テント。収容人数は200人といったところだろうか?さながらミニ遊園地の様相を呈しているが、実はこれ、ドサ回りのサーカス団なのである。

パンデミック以前の世界では、少なくとも1年に1回以上のペースで見かけたものだが、ここ数年は存在そのものを忘れていた。2020年から始まった新型コロナ狂騒曲に、サーカス団でさえも踊らされてしまったということなのだろう。

というわけで、約3年ぶりの巡業である。娯楽に飢えた田舎町とはいえ、インターネット全盛のこの時代に客など来るのか?特別興味があったわけではないが、久しぶりに見物に行ってみることにしたのである。

パンデミック前の2019年あたりに現れたサーカス団は、割と本格的なモノであった。空中ブランコや、手に汗握るバイク芸など、なかなかにスリリングな構成であり、我々も大いに歓声をあげたものである。当時の入場料は10レアルと記憶しているが、元は十分にとったといえる内容であった。今回もそのような『ザ・サーカス』であれば、楽しめるだろう。普段、出不精のボクらだが、20時から開演という言葉を信じ、19時30分に会場入り。料金はひとり20レアルと倍の金額になっていたが、それ以上に驚いたのが場内の設備である。まるで素人が仕事をしたようなチャチなセットに、ラフな屋台、観客席に並べられているプラスチック製のイスにはジュースのシミがこびりついていた。

開演30分前に着いたものの、場内はがらんがらんである。もともと市場の日に駐車場代わりにされるラフな空き地だ。足元を見れば、むき出しの大地からは力強い雑草が何本も生えていた。

持参してきた缶ビール『Bohemia 』を飲みながら場内を観察。普段アクセサリーを買ってくれるお客さんや友人たちの顔を発見しては、カウントをして喜ぶ。などという遊びをしてヒマをつぶしていたが、田舎町ではこういうときに人間関係が見えるものである。誰と誰が交際していて、誰が誰のファミリーだったか。というようなことまで、なんとなく把握できてしまうのが面白い。

(まさかアイツがあんな美女と付き合っているなんて!)とか、(あそことあそこのカップル別れたんだ〜。そういや彼氏の方、酒びたりで暴力をふるうって話だったもんな)などと、これまで耳にしてきたウワサ話の裏付けが取れたりもするのである。

ヒマにまかせてゴシップ記者のようにあたりを見回していると、ウチの近所に住むジョーズィーが少女と手をつないで現れた。ジョーズィーはパンデミックの間に奥さんと別れ、今では別の女性と付き合っているが、ひとり娘のジュリアはまだギリギリ父親に甘えてくれる年頃だ。その二人が仲睦まじく手をつないで現れたので、ボクらもついホッコリさせられる。

パンデミックの間に関係を清算し、新たな道を歩み始めた夫婦も多い。長年の友人であるドリエルソンもおしどり夫婦として知られていたが、いつの間にか別れてしまった。ほんの数年前は、彼らの家の至るところにビリビリに引き裂かれたコンドームの包装紙が散らばっていたというのに。

20時になり、なんだかんだで席の3分の2が埋まろうとしていた。が、依然としてショーが始まる気配はない。開演前に意地でも会場を満員にし、軽食を売りさばこうとしている魂胆が見え見えである。腹は減っていなかったが、あまりにもヒマだったためにポップコーンを購入。その他のラインナップとしては、りんご飴やチョコバナナ、わた菓子、ポテトチップス、ホットドッグなどが挙げられ、ターゲットが子ども中心であることを窺わせる。となると、このサーカスの出し物はあまり期待できない…。という予感が脳裏をよぎり、果たしてその懸念は現実のものとなってしまったのである。

21時を過ぎて、ようやくショーが開始された。

まずは小柄な青年が登場し、テントの骨組みのようなモノをブンブンと振り回すパフォーマンスを披露。すごいと言えばもちろんすごいのだろうが、運動神経の良いちゃむが少し練習すればできてしまうレベルにも見える。とはいえ、本番はこれからだ。次はどのようなアクロバティックなワザが繰り広げられるのか、我々は固唾を飲んで出し物を待った。すると、出てきたのはヨレヨレのジャケットに宇宙人の被り物をつけたギャグ路線のキャラクターで、ファンキミュージックに合わせて激しくケツを震わせるダンスを披露。サーカスというよりは、一昔前にデパートの屋上で行われていたコミックショーのようである。その安っぽい演出は場末のキャバレーも裸足で逃げ出すほどだ。

続いての出し物は、きらびやかな衣装を身にまとった男性のバトン芸。蛍光塗料が塗られたバトンを空中に放り投げ、クルクルと自由自在に操っていく。ただのトーシロにこのような芸ができるわけがなく、陰で相当な練習を積んでいるのはマチガイないが、ウケているのは子どもだけである。しかし、まだ序盤。ここから少しずつエンジンがかかってくるはずだ。と、期待したのもつかの間、お次はふてくされた表情をしたワンちゃんの着ぐるみが登場し、滑稽ダンスを披露。子どもたちは喜んでいるが、もちろん大人が見て夢中になるというようなシロモノではない。ここまできてようやくこのサーカスの趣旨を理解したボクらは、以降の出し物に期待することを諦めた。ここからは子ども向けの三流サーカス団として認識を改めなければならない。

そういえば、このサーカスの前宣伝では最新式のロボットが登場することになっており、ひとつの目玉としてアピールしていたが、この調子だとまずマチガイなく着ぐるみだろう。と、予想した直後に、『トランスフォーマー』を名乗るハリボテ感満載の着ぐるみロボが現れた。やはりそういう感じか!と、逆に嬉しくなるボク。

その後も、ちょっとした曲芸→着ぐるみショー→ちょっとした曲芸→着ぐるみショーといった出し物が交互に続き、子どもたちは大喜びである。と、同時に我々の疲労も限界に達しようとしていた。しかしひとり20レアルも払っている手前、途中退場するのは悔しい。あくびを噛み殺しつつ、なんとか本日のメインイベントである『有名人』の登場を辛抱強く待つことにした我々である。その『有名人』が誰なのかはよく知らぬが、人々のウワサ話によると、SBTというテレビ局の番組『Programa do Ratinho』に出演している、たいそうな『有名人』とのことである。

せめてひと目でも、その『有名人』とやらを見物したい。

強い決意で最後まで粘ることにしたボクらであるが、ついに登場したその人物は、赤い軍服に身を包んだ、ただのおっさんであった。アクロバティックな芸をするわけでもなく、面白いコントが炸裂するわけでもない。ただひたすら喋りまくっているだけである。失望したボクらは、『写真はおひとり様1枚まで!』という『有名人』の叫び声を尻目にさっさと会場を後にしたのであった。

あとで知ったことだが、この『有名人』、たしかに『Programa do Ratinho』に出演しているようである。しかしYouTube上の映像では、彼はただの置物のような存在であり、『有名人』めいたカリスマ性など、微塵も感じさせない。

そのような人物でもドサ回りでは客寄せパンダとして起用され、メインイベンターとしての機会を与えられるのである。

中央と地方の違いをまざまざと見せつけられた、今回のサーカス観戦であった。


白洲太郎(しらすたろう)
2009年から海外放浪スタート。
約50か国を放浪後、2011年、貯金が尽きたのでブラジルにて路上企業。
以後、カメローとしてブラジル中を行商して周っている。
yutanky@gmail.com
Instagram: taro_shirasu_brasil
YouTube: しらすたろう
Twitter: https://twitter.com/tarou_shirasu

月刊ピンドラーマ2023年4月号
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