第79回 実録エッセー『こりゃダメだ』 カメロー万歳 白洲太郎 月刊ピンドラーマ2022年10月号
ここ最近、というか2年と5か月もの間、悩み続けている問題が未だに解決していないというのは、なんとも居心地の悪いものである。
自分が正しい道を歩んでいるのか常に疑問を持ち、
『大事なのは継続。とにかく継続だ。いつか花開くその日まで』
などと自らに言い聞かせながらYouTubeへの動画投稿を続けてきたが、2022年も9月を迎えたある日、ボクはふと気づいてしまったのである。
『こりゃダメだ』、と。
ご存知のない方に説明をしておくと、ボクは2020年の4月から『ブラジル露天商しらすたろう』というYouTubeチャンネルを開設し、ブラジルの田舎暮らしにまつわる動画を200本以上投稿しているのだが、これがもう見事なまでにコケているのである。1年ほどかけて『チャンネル登録者数1000 人以上、かつ有効な公開動画の総再生時間が4000時間以上』というYouTube広告収益化の条件をクリアしたボクらであったが、その後も鳴かず飛ばずの低成長を続け、2年5か月もの間、それなりに心血を注いできた『ブラジル露天商しらすたろう』チャンネルの現在(2022年9月12日)の登録者数は2270人ほどで、ボクの目指す数字には遠く及ばない。それに伴い、各動画の再生回数も軒並み低調であり、底辺ユーチューバーとしての確固たる地位を築いているのである。知名度のない一般人がYouTubeチャンネルを成長させるには時間がかかる。それは当然のことなのであるが、『しらすたろう』の場合は時間がかかりすぎているのである。現在チャンネル登録をしてくれている方には感謝しかないが、このまま同じことを続けていても結果は出ないだろう。『いつかきっと』という希望的観測はYouTubeにおいては通用せず、やはり戦略、もっといえば努力する方向性が大事なのである。その事実に心の底では気づいていながら、2年以上も間違った方向に努力し続けてきたボクは相当なマヌケかもしれないが、少なくとも継続はしてきた。これを正しい方向に軌道修正したなら、きっとオレたちのチャンネルは爆発するだろう。
というわけで日々、チャンネルのテーマや方向性について熟慮するボクであったが、なかなかいいアイデアが浮かんでこない。ああでもないこうでもないと頭をひねってみても、突破口がまるで見えてこないのである。そうしている間にも時間は刻々と経過していくのであり、焦りに焦ったボクはとりあえずイスを買うことにしたのであった。
は?
と、目が点になる方もいるかもしれないが、まあ落ち着いて聞いてほしい。ボクの欲しているイスがどのようなものかというと、ゆったりと身体を預けることのできるリクライニング系のチェアである。これさえ手に入れば極上のリラクゼーションが約束され、次から次へと良いアイデアが浮かぶにちがいない。
そうだ、まずはイスを買おう!
ますます決意を固くしたボクは、さっそく大手通販サイトのMercadoLivre にアクセス、目を皿のようにしてイス選びを開始したのであった。
まずは憧れのcadeira de papai (お父さんの椅子)をチェック。ドッシリとした革張りソファのようなイスで、写真からでもその座り心地が伝わってくるが、一人がけにも関わらず、かなり巨大なシロモノである。これはちょっとスペースが…という思いでちゃぎのの表情を伺うと、彼女も同意見のようだったのでcadeira de papai系統のイスは見送ることにした。ここ数年、ユーチューバーたちがこぞって使っているゲーミングチェアという選択肢も浮上したが、家の雰囲気にまったく合わないのでパス。結局、機動性や収納に優れている折りたたみイスが一番良い。という結論に至ったのである。だったら青空市場の仕事で使っているビーチ用の折りたたみイスでいいんじゃない?と、グレードがどんどん下がっていったが、耐久性やリクライニング機能など、あらゆる面から検討したところ、いわゆるところのアウトドアチェア、有名どころでいえばcolemanというメーカーが作っている『インフィニティチェア』のようなイスが理想的だということになった。残念ながらcolemanそのものは見つからなかったので類似品で手を打つことにしたが、それでも530レアルとはけっこういいお値段である。であればこそ品質にも期待できるということで、家宝となり得るイスの到着を、ボクは今か今かと待つのであった。
ところで、最近のMercadoLivre は優秀である。数年前まではボクらの住むような田舎町への配送は2週間以上かかるのが常であった。しかし近年、特にパンデミックを迎えたあたりから配送スピードが異常に上がり、なんと1週間もかからずに届くことも珍しくなくなったのである。その企業努力には拍手を送りたいぐらいで、田舎暮らしの消費者には誠に心強い味方となっていることであろう。
そんなこんなでボクのリクライニングチェアも無事に到着し、本稿もその素晴らしい座り心地の助けを借りて書いている。無重力感覚とはよく言ったもので、このイスにゆったりと腰をかけていると、世の中の些事などどうでもよく思えてくる。
この日以来、『今日も平和だなぁ』
などと呟きながら、日がな一日イスに横たわるクセがついてしまったボクである。
以上の理由で、『しらすたろう』チャンネルのブレイクはもう少しだけ先のことになりそうなのであった。
月刊ピンドラーマ2022年10月号
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