夏の早朝
朝顔の種を3つ植えたのは、確か7月初めだったと思う。
最後のひとつが出なくて、でもまあ、ふたつ出れば良いかと思っていた。
その最後のひとつの芽が出たのが、種を植えてから1週間経ってからだった。
まだ日が昇らない午前4時、偶然目覚めてしまったので、窓辺に座り空が明るくなるのを見ていた。
夏の夜明けは気持ちがいい。
昼間の地獄のような暑さや騒がしさは影を潜め、涼しく静かな時間が流れていく。
これは子供の頃から同じだったように思う。ただ子供の頃はこうやって静かな時間を感じるよりも、眠さが勝っていた気がするけど。
ベランダに置いた朝顔が蕾をつけている。
せっかくだから、花が開くとこを観察してみようかと思った。
毎日いつの間にか咲き、いつの間にかしぼんでいるので、その咲く瞬間を見たことがなかった。
だんだんと空が明るくなっていく。
網戸越しに空と朝顔を交互にみる。
ふと、あることに気がついた。腕がかゆい。
網戸の隙間から蚊が入り込んだのだ。
叩いて仕留めてもいいが、夏の早朝である。神聖な時間である。
手を叩くことで生じる大きな破裂音でこの時間を壊したくない。
かゆみと蚊を受け入れてもいいかと考えたが、それはダメだ受け入れられない。何より羽音でこの静寂がぶち壊しだ。
少し悩んで、隣の部屋からワンプッシュタイプの蚊撃退噴射剤を持ってきた。
さようなら蚊、おかえり静寂。
網戸から朝顔をみていると、それがドットで描かれているように感じてくる。
昔3Dが開拓される前のゲーム画面のような、鮮やかで懐かしい風景。
そうこうしているうちに窓の外の音が変わり始めた。
雨のような滝のような、音の塊が近づいてくる。
それは太陽の光とともに目覚めた小鳥たちが一斉に告げる、夜明けの音だった。
ふと上を見ると飛行機雲が一筋、空に引かれていた。
飛行機雲を落ち着いて見たのも随分久しぶりのことのように思う。
飛行機雲はゆっくりと空にとけていき、空の水色が少し濃くなる。
そうだ、これはnoteに書いておこう。
そう思いスマホを手にとったのがついさっき。
朝顔は、ついにその捻れた円錐状の蕾を解き、ふわりと花開こうとしていた。
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