フィンランド🇫🇮VSベルルスコーニ🇮🇹ピザによる「血の復讐」とは?!
先日、「なぜフィンランド料理はまずいのか」という記事をあげたのですが、
その中で、
フランスのシラク大統領が「フィンランド料理の次にまずいのがイギリス料理」
と揶揄った話をご紹介しました。
これは完全に、フランスVSイギリスの戦いへの巻き込まれ事故でした。
今回は、
イタリアのベルルスコーニ首相に「フィンランド人はマリネしたトナカイしか食べない。滞在中の食事は我慢が強いられた」
と揶揄われた話をします。
ヨーロッパを代表するグルメ大国2強の首相に名指しでメシがマズイ!と言われるフィンランド。
今回はどうなってしまうのか?!
これは先日、フィンランドのピザの話を書いていた時に思い出して、その概要をうっすらしか知らなかったので色々調べていたら、これは映画になりそうなストーリーだな、と面白くなってしまい、纏めて記事にしてみます。
フィンランド料理への批判で有名なイタリア首相
2005年6月21日、パルマで行われたEU食糧庁の開会式で、イタリアの元首相シルヴィオ・ベルルスコーニは
「フィンランド人はマリネしたトナカイしか食べない。」と発言。
訪問した際の食生活は「我慢に耐えた」ものだったと続けました。
食糧庁の設置をイタリアとフィンランドで争った際も、「食糧庁はパルマに置くべきだ。フィンランド人は生ハムが何なのかすら知らない」とも述べています。
美食家としても有名な彼に、フィンランド料理の素朴な良さが伝わらなかったのかもしれません。
でもこんなに辛辣で非道い言い方はアリなの?!
フィンランドの「血の復讐」
温厚なフィンランド人も流石に頭に来たのでしょう。
最高に“おいしい”方法でベルルスコーニに復讐します。
フィンランドで最もポピュラーなピザレストラン「KOTI Pizza(コティ・ピザ)」は、2008年「ピザ・ベルルスコーニ」という名のピザを考案。
イタリア人のベルルスコーニに敬意を表し、イタリア料理の代表であるピザで“おもてなし”しようという訳です。
このピザは、フィンランド名産のライ麦生地、スモークしたトナカイ(レインディア)肉、アンズダケ、赤玉ねぎなどの野菜をたっぷり乗せたものです。
ベルルスコーニが「我慢に耐えた」というフィンランドを料理を代表する食材がこれでもかと使われています。
KOTI Pizzaは、このフィンランド素材と皮肉たっぷりのピザをニューヨークで行われた国際ピザコンテスト「The America's Plate International Pizza Competition」に出品。
そして、イタリア系アメリカ人を270点の2位に下しぶっちぎりの307点で優勝したのです。
審査の際、最初は見慣れないトナカイ肉が使われていることに戸惑いがあったようですが、食べてみると絶賛の嵐で褒め言葉しか出てこなかった、とのこと。
コンテストに参加したKOTI pizzaのJarmo Valtari (ヤルモ・ヴァルタリ)とPertti Laitinen(ペルティ・ライティネン)は、フィンランドの大手メディアIlta-Sanomatに
「フィンランド料理を批判したベルルスコーニに言いたい事は?」と聞かれ、
「本当に美味しいピザはどこで作られているのか訊ねてみたい。そしてそれはフィンランドにあるってね」と答えたそうです。
痛快この上ない回答ですね!
このピザは同じレシピで同年フィンランド国内でも販売され、たちまち人気になりました。
(正確には、コンテストのレシピではきのこはミキイロウスタケを使っていたが、入手しやすいアンズダケに変更。2つとも同じアンズダケ科のきのこ。普通のアンズダケは映画かもめ食堂でも重要なアイテムとして登場。)
イタリア紙の反応
イタリアの新聞「Corriere della Sera」紙は、このピザの成功を「血の復讐」と呼びました。
彼らは、「このピザは革新的で美味しいがベルルスコーニには受け入れられないかもしれない、しかし、彼の失言は文化的無知を露呈しており、フィンランド人が怒るのは当然だ」と記しています。
さらに同紙が紹介しているKOTI Pizzaの「ピザ・ベルルスコーニ」の広告の宣伝文句が、
“97歳のおばあちゃんがベルルスコーニにかぶりつく”
“大臣がベルルスコーニをフォークで刺す”
など皮肉が効いたものだったと紹介しており、
これらの広告はイタリア人を怒らせたと言われています。
イタリアは大使館を通じて、ベルルスコーニの名をメニューから削除するよう求めました。
KOTI PizzaのCEOはこれを拒否し、代わりにこの件について直接話すようベルルスコーニを招待しましたが、回答はなかったとのことです。
ベルルスコーニの再訪
2011年、フィンランドに再訪したベルルスコーニは滞在した老舗ホテル「KÄMP(カンプ)」で料理を味わい、絶賛したと言われています。
のちにジャーナリストに対し、「トナカイのフィレやサーモンサンドイッチ、チョコレートタルトなどフィンランドで美味しい食事をした」と答えています。
またベルルスコーニは、失言後、ずっとフィンランド料理を嫌っているとされる誤解を解きたいと考えており、問題の発言は食糧庁のイタリア誘致のためだったと説明。
彼も、フィンランドがこんなアッパレな方法で仕返ししてきたら料理をもう批判できないし、少し反省もしていたのかもしれませんね。
ピザ・ベルルスコーニのその後
ピザ・ベルルスコーニはコンテスト後、期間限定で販売予定だったのですが、あまりにも人気で売れ行きが良いためレギュラーメニューへ昇格。
2008年以降、15年経った今でもフィンランドで販売され続け、この経緯を知らない人々にも人気のピザになっています。
2022年には年間15万枚が販売され、他の主力ピザと同様の人気商品とのことです。
しかし、2023年末、若干のレシピ改変ののちピザの名前は「POLO」と変更されました。
同年、ベルルスコーニは6月に84歳で死去しています。
彼が生前、このピザを食べたという記録はありませんが、もしかしたら再訪時にこっそりデリバリーしていたかもしれませんね。
ベルルスコーニのフィンランド料理をひどく揶揄った行為は良いとは言えませんが、その食文化に影響を与えるきっかけになり、それをポジティブな力に変えて応えたフィンランド人の国民性も素晴らしいと感じました。
おわりに
今回の話を調べていて、歴史的なワイン大国フランスとのワイン対決にアメリカのワインが勝利した「パリスの審判」の話を思い出しました。(気になる方は調べてみてください)
フランスもイタリアも、料理の華やかさや奥深さ、食材の豊富さは世界中がとりこになる国です。
グルメやワインには歴史やプライドがあるので、ついつい鼻を高くしがちなのかなと思います。
培われた歴史や経験があっても驕りがあってはいけませんよ、という教訓とまとめられるのでしょうが、単純にノンフィクションのコンテンツとしてとてもドラマチックで面白かったです。
そして、普段温厚なフィンランド人も怒る時はちゃんと怒るし、やり方がカッコ良いなと心から感心。
日本語でニュース記事がないようだったので、この話の詳細を残したいと思い記事にしました。
訴えたいことを暴力や暴言ではなくクリエイションで訴求する力は日本も得意だとわたしは思っていて、両者近しいところがあるのかなと親しみを覚えます。
フィンランドに友達が来たらKOTI PizzaでPOLOをデリバリーして、「このピザはもともとはピザ・ベルルスコーニと言ってね、、、」とうんちく大会をやりたいと思います!(ほどほどに。。)
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