民主主義とは何か ~その歴史と未来~
英エコノミスト誌2021年1月16日号に、民主主義とは何かについて考察した重要な記事"Democracy: Madison's nithtmare"が掲載されていたので、その内容の一部を紹介したいと思います。
アメリカやイギリスでポピュリズムの嵐が吹き荒れ、欧州その他の国々で独裁的な政権が台頭するなど、民主主義の危機が叫ばれています。
歴史を紐解くと、民主主義は放っておくと衆愚政治に陥ってしまうということは、2000年も前から言われていました。
「政治哲学者は、2000年以上にわたってこの点を強調してきた。近代以前の理論家は、隙を見せれば「多くの頭を持つモンスター」が既成の秩序を踏みにじることについて絶えず警告してきた。リベラルな考えを持つ人々でさえも、民主主義が「衆愚政治(モボクラシー)」に発展することを心配していた。」
"Political philosophers have been making these points for more than 2,000 years. Pre-modern theorists never tired of warning that, given the chance, the “many-headed monster” would trample the established order. Even liberal thinkers worried that democracy might give rise to “mobocracy”. (英エコノミスト誌2021年1月16日号"Madison's nightmare"より。以下引用同じ)
民主主義が衆愚政治に陥らないようにするためには、どうしたらいいのでしょうか。哲学者プラトンは、著書『国家』の中で次のように述べています。
「プラトンによれば、唯一衆愚政治の代わりになりうるのは、守護者の階級による支配だという。感情を制御し、本能よりも智慧を優先させるように幼いころから訓練されてきた「哲人王」による統治だ。」
”For Plato the only viable alternative to mob rule was the rule of a caste of guardians: philosopher kings trained from infancy to control their emotions and put wisdom before instinct.”
本能や欲望に流されない、知恵のある人が統治するべきだという説ですね。アリストテレスはプラトンの説をさらに進めて、次のように述べました。
「アリストテレスは、民主主義が衆愚政治に陥るのを防ぐのには2つの方法があると説いた。王制と貴族制の要素を混合して民衆の意思を抑制することと、安定性の柱となる中産階級の層を厚くすることだ。」
"Aristotle argued that there were two ways of preventing democracy from degenerating into mobocracy: mix in elements of kingship and aristocracy to restrain the will of the people; and create a large middle class with a stake in stability."
次にエコノミストでは、フランス革命とアメリカの独立という、2つの民衆による革命について考察しています。
フランス革命は民衆の勝利であり成功だった、と長年思われてきましたが、最近では評価が変わりつつあります。革命後フランスは混乱に陥り、結局はナポレオンという独裁者を生んだだけでした。
一方、アメリカが独立したときは、「アメリカ建国の父」たちが憲法を制定して国民の権利を認め、また、権力を複数部門に分散させたり、国会議員の任期を定めたりすることによって、混乱に陥ることなく民主的な国家を誕生させることに成功しました。
19世紀のフランスの政治家、アレクシ・ド・トクヴィルは、このようなアメリカの民主政治について、衆愚政治に陥らないためには憲法だけでは足りないとし、著書の中で次のように述べています。
「(市民が自治的で自立していることが必要であり、)支配層の最初の義務は「民主主義教育をすること」だと理解しているはずの、責任ある支配層にも同じことが当てはまる。」
”So too is a responsible elite that recognises that its first duty is to “educate democracy”
民主主義の大切さや、投票に行くことの意義などをきちんと教育しなければ、民主主義は簡単に壊れてしまいます。さらにエコノミスト誌は、このように結論づけています。
「だが、それ(リベラルな民主主義)が成功するのは、格差が極端に開くことを防いだり、有権者が事実に基づいた情報にアクセスできることを保証したり、政治に流れる金銭を管理したり、抑制と均衡を強化したりなど、民主主義的な公共機関を育成するよう国が必要な努力をしたときだけだ。」
”But they can be successful only if countries put the necessary effort into nurturing democratic institutions: guarding against too much inequality, ensuring that voters have access to objective information, taming money in politics and reinforcing checks and balances. "
日本国憲法にも、民主主義は「国民の不断の努力によって」守られるとあります。何も努力しなくてもあって当然のものでは決してありません。そのことを学校でも家庭でも、毎日毎日、子供たちに教え込むぐらいの努力をしないと、世界はいとも簡単に、自分の欲望のためだけに突っ走る人たちに支配されてしまうのかもしれません。
*引用元のエコノミストの記事はこちらで読めますので、英語で読んでみよう! と思う方はぜひチャレンジしてみてください。今回はとても重要な記事だと思います。