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世界は民主主義の危機を克服できるか

アメリカでは大統領選挙をめぐる混乱がいまだに続き、イギリスはEUから離脱して、いま世界には大きな分断が生まれています。また、ハンガリーやポーランド、インド、ベネズエラ、ブラジルといった国々では独裁政権が台頭しつつあります。ソ連崩壊以降、押し寄せた民主化の波は、どうして逆流し始めたのでしょうか。

「EIU(エコノミスト・インテリジェンス・ユニット、エコノミスト誌の姉妹組織)では、2006年から民主主義指数を作成している。2019年度のスコアは最悪だった。Covid-19がこの後退にさらに拍車をかけつつある。」
"The Economist Intelligence unit (EIU),our sister organisation, has been compiling a democracy index since 2006. Last year's score was the worst ever. Covid-19 has accelerated the decline."(英エコノミスト 2020年11月26日号 "The resilience of democracy"より。以下引用同じ)

EIUでは、政治体制や報道の自由度などの要素から判定して、世界167カ国の民主化のレベルを判定してランク付けしています。日本は「欠陥のある民主主義」ということで24位なのですが、なんと昨年はアメリカが「完全な民主主義」から格下げされて、日本の下の25位に来てしまいました。

さらに、covid-19を理由に多くの国々が強制的な「ロックダウン」を行い、自由な市民生活が制限されているという現実があります。

「この民主主義の脅威は、軍部のクーデターによる脅威ではなく、権力を握る政府によるものだ。」
"The threat is not from military coups but governments in power."

これが現代の民主主義の危機の特徴です。世界の各国で、選挙で選ばれたリーダーが独裁的な権力をふるうようになりつつあります。そうなった大きな理由の一つに「アイデンティティ政治」があります。

「野心的な政治家は、政策よりもアイデンティティ(人種、宗教、社会階級の違いなど)をはるかに重視することでこのような気持ち(訳注:政治に対する労働者階級の不満)に応え、有権者の悩みや苦しみを重視していることを示している。」
"Enterprising politicians responded to these feelings by elevating identity far above policy so as to show voters that their grievances matter."

政治がアイデンティティに偏ると、民衆の関心が強まるため投票率などの政治参加率は高まります。昨年のアメリカ大統領選挙は、トランプとバイデン両者とも、史上最高の投票数を得ました。

「(政治離れという)民主主義の問題の一つを解決したものの、アイデンティティー政治によって別の問題が生まれた。」
"But in solving one of democracy’s problems, identity politics has created others."

人種、宗教、社会階級などの個人が持つ「アイデンティティ」は容易に変えられないし、もしそれを否定されたら激しい怒りがわく性質のものです。したがってアイデンティティを重視しすぎると、寛容さがなくなり誰とも妥協ができなくなります。これが現代社会の分断を生んでいるのですね。

「政治は社会の対立を解消するはずだが、民主主義はそれどころか対立を生み出している。」
"Politics is supposed to resolve society's conflicts, but democracy is generating them instead."

どうして民主主義が、社会の分断の種になってしまったのでしょう。思うに、民主主義を多数決主義と勘違いしている人が多いことが問題ではないでしょうか。

民主主義は多数決主義ではありません。多数決で勝った人も負けた人も、妥協点を見出して両者が恩恵を受けられるようにするのが政治の役割であり、本当の民主主義です

「一部の国では、多数決主義に陥ったリーダーたちが、アイデンティティを同じくする集団の忠誠心を利用して、政府を監視するはずの機関を骨抜きにしてしまっている。」
"In some countries majoritarian leaders have exploited this tribal loyalty to nobble the institutions supposed to check them."

tribal loyaltyの「tribe」は「部族」という意味ですが、最近のニュース記事ではこのように、個人のアイデンティティや党派などで凝り固まって狂信的になったグループのことを「トライブ」と呼んでいます。

しかし、民主主義には自らを正していく力があると、エコノミスト誌は述べています。

「民主主義の強みの一つは、やり直すチャンスがたくさんあることだ。選挙が行われる限り、政府が不正に票を操作するような国でも、ならず者を追放できる可能性は常にある。」
"One of democracy’s strengths is that it promises lots of chances to start again. So long as elections take place, there is always the possibility of kicking the rascals out even in places where governments stack the vote."

国民が政府を監視し、国を悪くするような無能な政治家は要らない! と、投票でその意志を示すことが大切です。正しい民主主義は、選挙によって守られます。

民主主義が復権するかどうかは、すべて私たち国民次第だということですね。選挙に行くことの意味と重要性については、未来を担う子供たちに、学校などでもっとしっかり教育してほしいものです。

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