本家の後継 12 劣等感・孤独感
人生に苦難困難はつきものだという。
なぜ、そんな体験をしているのだろうか?
「人は何故生きるのか」よりも「どうやって生きていくか」が大事だという人がいる。
確かにそうかも知れないが、それだけでは自分が生きていく理由にならないほどの、苦難困難が目の前に現れることがある。
与えられた環境の中で、選択できるほどの知恵が湧いてこないこともある。
人間って、いったい何という生き物なろだろう?
自分は、何のために生きていったらいいのだろう?
この話は、隆子(私)が自分自身の人生を振り返って、その苦悩の中を生き抜いてきた話や人生について考えるきっかけになった思い出です。実在する人物が登場するため各所に仮名を使わせていただいています。
隆子の父、真一は再婚しても相変わらずだった。
本家の跡取りとして家督相続したが、結局は家長としての責任というよりは、家や田畑が自分のものになって、家から独立した自分の兄弟に比べて、金銭的な得をしたくらいにしか思っていなかった。
自分自身が努力して手にしたものでも無いのに、家賃を払っている人を変に蔑むような言葉を時々口にしていた。
真一は、後継であることに何か間違った優越感をもっていたのだろう。
想像でしか無いが、
長男として生まれ、後継として周りのもの達が、持ち上げてきたのでは無いだろうか?
それが「自分は持ち上げられて当然の優れたるもの」という錯覚を植え込んでしまい、その錯覚が後の真一の人生を狂わせて行ったのかも知れない。
酒に溺れ
職業を転々とし
先妻には逃げられ
人々に諭される
酒を飲んで、だるくて賄えない農作業のために農機具を買い
流行り物好きのために家電を早くに買い
通勤のために買った車は、飲酒運転で何度も事故で壊し
真一にとっては、家族のためという大義名分のつもりであったのに、借金が膨れ上がっていった。
女しか生まれなかったので、それも気に入らない。
子育ても甲斐がなく思えた。
再婚して新しく迎えた妻、ミヨはあまり器用ではなかったために、家のことは前の妻まさ子ほどは色々とこなしてはくれなかった。
実はミヨも再婚である。
ミヨが離婚した理由が「家のことをあまりしない」ということで嫁ぎ先の姑に追い出されたというのだ。
それでミヨの家の者も、真一がミヨを嫁に欲しいと言ってきた時に「家のことがあまり出来ないから」と断っていた。
真一の家族のことや生活態度のことなども、それとなく耳にしていたこともあって、ミヨがそこに嫁に入っても上手くいかないことは分かっていた。
しかし、真一は半年あまりもミヨの元に通って心を動かしたらしい。
ミヨ自身の口から「行く」と言い出したらしい。
ミヨの両親と兄弟、兄弟の嫁で家族会議をした。
そこまでいうならばと
真一には
「生活を改め、絶対にミヨを幸せにしてくださいよ。」
ミヨには
「ここまで反対しても行くと決めたなら、離婚して家に戻ることはゆるしませんよ。」
ミヨの家族にとっては、結婚させないための最後の説得とも言えるものだった。
実はミヨは離婚して自分の実家に戻っても、弟の家族がいて肩身が狭かった。
弟の嫁は、なかなかのやりてだったので、両親にもうまく取り入って気に入られていたので、実の子であっても比べられて、器用で無い自分はお荷物だろうと思えた。
弟の嫁が、体よくミヨを家から出す為に何か画策したかどうかは、想像出来なくも無い。
真一は何故、ミヨに魅力を感じたのだろうか?
一人の男として、寂しさを埋めたかったのもあると思う。
相手も離婚経験があるという点に置いて、自分のプライドが和らいだのかも知れない。
それに器用で無いがゆえに男を負かすタイプではない。可愛く思えたし、顔も好みのタイプだった。
つまり、二人は打算の部分と、男と女の本能的な結びつきを求めてしまったのだろう。
そうして一緒になったものの、現実がのしかかる結果となってしまった。
ミヨは家事もろくに出来ない。
子供達の世話・距離が埋められない。
何もかもが、真一の思い通りにいかなかった。
次第にミヨにも手を上げるようようになって行った。
お金の悩みも、結構なウエイトをもたらす。
さまざまな悩みを紛らわせようと、さらに酒に依存していった。
酒はいい。
体がふわりとして、何も考えなくていいようにしてくれる・・。
酒乱の父親と、暴力をふるわれている継母。
隆子も隆子の姉達も、子供である。
なす術もなく、そんな光景を目にしながら毎日を生きていた。
様々な上手くいかないことが、真一の劣等感を強くしていった。
だが、本人はそれが劣等感だとは気が付かなかったはずだ。
自分が、上手くいかないのは周りのせいだと思ったし、現実に自分の周りには自分の足を引っ張るようなことだらけだった。
自分なりに一生懸命なのに、つまらないことを自分に強いたり、批判的に物事を言ってきたりして気持ちを腐して来る。
まるで「ハズレ」ばかり引いているように真一には思えた。
他の人は、偶然上手く行って、そして上手いことしているように見えて、知らず知らずに嫉妬心とそして自分がそうなれない劣等感が湧いてきた。
深酒が、努力する力を奪っていると認めることから逃げた。
自分で自分を苦しめていることを、誰も上手に教えてくれなかった。
誰しも、そのやっている行動だけを責め、陰口を言い、無理に諭そうとした。
仲間は傷の舐め合いしかしてくれなかった。
人を理解するというのは、簡単にはいかない。
誰かが理解してくれたとしても、その本人の心まで変えることはできません。
でも、理解してくれる人が側にいてくれるだけで少しずつでも影響を与えて行くことは出来ます。
父、真一を理解してくれる人、受け入れてくれる人が本当は欲しかったのだと隆子が思えるようになったのは、自分が同じような劣等感や孤独感に苦しんで、そこから抜け出すことを模索するようになってからのことでした。
本家の後継を読んでいただき、ありがとうございます。
この続きは、また次回に。