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本家の後継 8 受け身体質
自分とは何であるか考えるようになったのはいつからだろう。
周りの人を羨ましがることを覚えても、
他の人と自分が、どう違うのかは考えなかった。
他の人の中身って見えない。
自分の中身も見えない。
鏡に写っていたのは、ただの田舎の汚い子供。
この話は、自分自身の人生を振り返って、その苦悩の中を生き抜いてきた話です。実在する人物が登場するため各所に仮名を使わせていています。
テレビがようやく復旧するようになり、白黒からカラーになった頃だ。
電話を引いている家が村に一軒しかなかったころから、やっと各家庭に黒電話がつながった。遠くにかけるときは、交換手にかけて相手先につないでもらっている時代。
今時のように玩具や本が沢山あって、ゲーム機やスマホ、パソコンなどはもちろん無い。
子供達は、大きい子から小さい子まで村中から集まって一緒に遊んでいたものだ。
隆子は、生まれた時こそ大きく生まれたが、成長するに従って、小さく育った。
病気がちで弱々しかった。
性格もあまり強くなかったし、活発な姉達についていくのがやっとだった。
隆子の子守をするように言われている姉達からすれば、自分の遊びについて来れない「お荷物」でしかない。
その子守役を一番させられていたのが、三女の富子である。
いつものように、隆子を見ているように言われた三女の富子は、隠れんぼをすると嘘をついて、隆子を鬼にさせ、居なくなるという裏技を編み出した。
そして富子は、煙に巻いた隆子のことは、勝手に家に帰っていると思い込みスッカリ忘れて友達と遊んでいた。
その間、隆子はずっと富子が隠れそうなところを探したが見つからない。
一緒に遊んでいた富子の友達も見つからない。
しまいには心細くなって富子の名を呼ぶが返事はない。
泣きながら、村中を探し回っていた。
日が沈みかけ薄暗くなった夕暮れ。
泣きながら歩いている隆子に出会った村の大人が、家まで送ってくれた。
家に帰って、その話を聞かされた真一は、富子を殴った。
隆子をほっといて遊んでいたから殴ったのではない、自分が恥をかかされたと言って、気に入らなかったのだ。
(なぜそういう方向の思考になってしまうのだろ?)
それを見た隆子は、怖くてまた泣いた。
富子は、
泣いてばかりいる隆子を本当に面倒で邪魔なヤツだと思った。
隆子は何だかトロイし、その上ちゃんと言うことを聞かない。
待っていろと言っても、すぐにどこかに行ってしまう。
自分の方が姉だからと、いつも我慢をさせられたり、隆子のせいで怒られたりしてなんだか損をしているような気がした。
子守を引き受けなかったら、普通に遊べるし、怒られることも無いのに。
隆子は、小さいと言うだけで自分よりも可愛がられている。
洋服だって、自分はお下がりしか着ていないし、お下がりのお下がりなのでいつも自分のところでダメになってしまうから、隆子には新しい洋服になってしまう。
(富子は、実はけっこうな御転婆だったので、よく破いたり汚したりして洋服がダメになった。必然的に隆子に行くはずの洋服が少なくなっただけなのだが・・。)
富子は、隆子に対して小さな嫉妬心を膨らませていった。
それに富子は、知恵が働いた。
だから得をしようと、トロイ隆子を騙すことが良くあった。
親戚のおばさんが、容器に入った目新しいカラフルなチョコレートを子供達それぞれに、一つずつ買ってきてくれた。
振ると、カラカラと音がして素敵に聞こえた。
富子は、美味しくってあっという間に食べ、空にした。
隆子は、少しずつ食べて味を楽しんでいた。容器の中に入っているカラカラ音も楽器のようで楽しかった。
富子は、隙をみて隆子と自分のチョコレートの入れ物をすり替えると、あっという間に自分の口へと運んだ。
その行動は素早かった。
トロイ隆子は気づくのが遅かった。
「チョコレートの音がしない!」
入っていたはずのチョコレートが、空になっているのに気がついて隆子はまた泣いた。
その横で、「しらないよー」と言って、富子が大笑いした。
今思えば、末っ子だったこともあって、人から与えられることの方が多かった。
と言うか、いつも受け身だった。
それを理由にするのは、言い訳のようだが、人にしてあげることがあまり得意ではなかった。
どこかで「してもらう」ことが当たり前になっていたかもしれない。
そんな隆子は、真一の機嫌の良い時には可愛がられた。
周りの人が、顔が父ちゃんに似ていると言っていたからかもしれない。
小さかったので、上の子達の都合がつかない時には、自分が面倒を見なければならない時もあり、親戚の家に行く時には一緒に連れて行かれた。
もちろん親戚には隆子より年上の従姉妹がいたので、そちらに隆子をまかせて、真一は親戚で一杯飲んでいた。
まあ、飲みに行くいいダシにされていたのかもしれない。
従姉妹達にも遊んでもらい、ここでも受け身の関係が与えられた。
必然的に与えられた環境が、愛情を求める気持ちと受け身体質をつくり、将来の自分を苦しめることになっていった。
この話の続きは、また次回に。