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本家の後継 5 母との別れ

なぜ、人は愛情を求めてしまうのでしょう。

なぜ愛情が得られないと自己否定するようになってしまうのでしょう。

心にポッカリと穴が空いていることに気がつかないころ、自分が本当は何を求めているのか分からなかった。

自分で心を満たすことが出来なくて、愛されることを求め、手にすることが出来ずに心はさまよっていました。

幻の愛情を欲しがっていた。

愛情だと勘違いして、良い暮らしを夢見るようになったのはいつからだろう。


この話には、実在の人物が登場するため仮名を使わせていただいています。


真一とまさ子は同じ村に住んでいる。

山間のわずか二十数軒ほどしかない村だ。

離婚しても顔を合わせることもある。

それよりも、別れた子供達がすぐそこにいる。

普通ならば喜んでも良いようなことだが、親権を取れなかった母の方に子供達がなついてくると、真一の性格からしたらそれは気に入らないのは分かる。何をしてくるか分からないのと、これからは、困っている子供を見ても何もしてやれない。抱き寄せることさえままならない。

子供は大人の事情は関係ないので、甘えてくるだろう。

それを自分は跳ねのけられるだろうか?

まるで蛇の生殺しにあっているような複雑な思いが、まさ子を苦しめた。


周囲の親戚も同じ心配をした。

それで、まさ子は県外にいる親戚をたよって村を出ることにした。


隆子が庭先で石を重ねたり、並べたりして遊んでいると、自転車に乗って魚を売りにきている、おばちゃんが話しかけて来た。

今時のように冷蔵庫も立派で無かったし、スーパーなども近くにはない。だから時々このような魚売りのおばちゃんや、いろんな物を車に積み込んで売りに来る移動販売車などが来ていたのを覚えている。


魚売りのおばちゃんは、近所の人に事情を聞いて知っていたのにもかかわらず、三歳の隆子はどう思っているのか、確かめて見たくなったのだろう。

「母ちゃんどこいった?」


「母ちゃん、お菓子買いに行った。」

帰らない母を待つ隆子をなだめるために、周りの大人が教え込んだのだろう。

無邪気に、答えたかに見えた。

隆子は思い出したように、家の前の道へ出ると、町へと続いているほうをジッと見つめた。

「母ちゃん、いつ帰ってくるんだろう?」と小さな口から出た。

魚売りのおばちゃんは、後ろを向いて目頭を拭った。自分も人の親である。


それから毎日のように隆子は町へと続く方を、見るようになった。


今でも、私の中には、その時の母を待ちわびる心と、山間の曲がりくねった細い道の映像がセットになってハッキリと思い浮かびます。

ずっと

ずっと

母が帰るのを待っていました。


子供というのは時間と共に慣れていくものです。

私もいつしか、母を待つのを忘れて行きました。


書いていて思い出したので、前回までの内容の一部を修正したいと思います。家族の中に、寝たきりの曽祖母がいました。

米寿のお祝いで写真を撮っていたシーンや、私のささやかな犯罪を思い出しました。


一番奥の部屋で曽祖母は寝ていました。

ある時に、私はそのおばあちゃんに「ぶどう」を運ぶように頼まれて、持って行きました。

祖母はすぐには食べませんでした。

隆子の手が「ぶどう」に伸びる。

プチッ。

甘くて美味しい。

プチッ。

次々と手は止まりませんでした。


部屋を出ると

「隆子。婆さんのぶどうたべたな!」と一瞬にして見破られてしまいました。

なぜバレたんだろう?

隆子は自分の口の周りと指先が、ぶどうの紫色に染められていることには気が付きませんでした。


真一とまさ子が離婚して、半年が過ぎたころの雪の降る季節に、その曽祖母が老衰でなくなりました。

そしてさらに半年後に、真一の母が脳溢血で倒れ、ひと月の闘病の末に亡くなってしまったのです。


離婚の時、育児は親がしてくれるという後ろ盾があったはずで、まさかこんな形で当てが外れるとは思っていなかった真一。しかも離婚して、わずか一年で。

これから一人で四人の子を育てなくてはならなくなりました。

やりたい放題やって様々なことを家族任せにしてきたので、宇宙がバチを当てたのかもしれません。


機械が普及してきたこともあり、真一は農耕用の牛を手放しました。これで、牛の餌の心配と牛舎の掃除の心配はなくなりました。

牛の代わりに借金をして、耕運機を買った。

お酒の方が好きだから、怠け癖はさほど直ってはいませんでしたが、真一は、実は新しい物好きだったし、機械をいじったりするのは割と好きだったために、機械を使って田んぼや畑を耕すのが意外にも嫌ではなく、なんとか自分の家の農作業はこなした。


真一が祖母と母を失い、恩給の額がどのくらい変わったのかは分かりません。ただ、怠けグセが染み付いた真一にとって、地獄のような日々に変わって行ったのは間違いのないことでした。

その感情の矛先は、この家から出て行った、まさ子への恨みになり、そのやり場のない気持ちを紛らわせるために、今まで以上に酒へと溺れて行きました。もう、止める人はいません。

お前達の母親がどんなに酷いやつなのかを子供達にいい続け、当たり散らす毎日。守ったり、かばったりしてくれる味方はもう側にいなくなりました。

三人の姉達も、父、真一に嫌悪感と恐怖心をつのらせて過ごし、父の機嫌の矛先が向かってこないように必死で自分を守っていました。

そんな、恐怖の洗脳を受けた子供、隆子は一体どんな人生になってしまうのでしょうか。


続きはまた、次回に。




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