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切り干し大根に母親を思う

「切り干し大根に母親を思う」
 今年は暖冬の影響で、冬物野菜がすくすく育ったようです。その恩恵を受けて、多くの人たちから大根を頂きました。お鍋、おでん、なますと姿を変えた大根料理を十二分に堪能しました。残りは棒状に切って干し籠に入れ、1週間の天日干しです。
 カラカラに乾燥し少し甘い香りが残る切り干し大根を手に取ると、9年前に他界した母親のことを思い出しました。食堂をしていた母は毎朝、切り干し大根を煮つけて卵でとじるのが日課でした。出勤前に立ち寄ると、待ち構えていたかのように「はよう味きいて」と母の声。
 炊きたてのため、ふうふうと息を吹きかけながら食べると、適度な甘味とだしのうま味、ふくよかな卵の香りが口いっぱいに広がりました。そんな脇役の料理にも決して手を抜かず、昆布、煮干し、かつお節からとっただしを使っていました。「いける。おいしい」と言うと、満面の笑みでした。
 仕事一筋、全力疾走で人生を駆け抜けた母の思い出が、何気ない日常生活の中で鮮明によみがえります。母は、今もなお私の記憶の中で確実に生きているのです。楽しい時も悲しい時も、優しく見守ってくれます。気が付けば還暦を過ぎた私ですが、面白いことに年を重ねるたびに母に似ていくようです。
2020年年3月20日 徳島新聞朝刊「読者の手紙」掲載

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