「ハッキリ言うとチケットが売れないのはコロナのせいじゃないからね。そういうのはチケットが売れているひとが言うせりふです」
これには言いたいことがある。
「コロナの感染拡大に伴いライブを中止します。」
今この現時点でそれを言い出すミュージシャンが増えてきた。よくよくよく見てみると、コロナなんか関係なくチケットを売っていない(売れていない)人たちばかりのように感じる。
自粛期間が過ぎ、舞台人たちはとても慎重に、綱渡りをするような思いで公演を再開し始めている。わたしたちクレモナも「11月はどうなっているかわからないですが」と言いながらも、もちろん感染症対策をしながらの定期公演の開催を予定している。チケットの販売目標はホールの二分の一の250枚。ソーシャルディスタンシングを保ちながらの開催になる。
舞台という興行は、「表舞台」に立つ人たちだけのものではない。裏方と呼ばれる音響さん、照明さん、道具さん、衣装さん、メイクさん、ホールスタッフさん…など、表舞台に立つパフォーマー以上にたくさんの人々の技術と知恵の結集である。
だから今回のコロナで影響を受けているのはパフォーマーやイベント会社だけではない。多くの、舞台の興行を生業にしている人たちみんなが困っている。しかも、裏方の人々は補償や支援の対象になりにくいのである。
だからこそ、わたしたちはみんなで力を合わせて、このコロナ禍において慎重に、興行を打ち出そうとしているのだ。そして少しずつでもお客さまが安心して鑑賞していただけるように、客席に帰ってきていただけるように必死で知恵を絞っている。みんなで再起を図ろうとしているのだ。
そんな中で先日起こった新宿の小劇場でのクラスターは言語道断の出来事だった。目先のお金を優先した結果だった。またお客さまの中で「「ライブは危ない」「舞台はまだ見に行けない」という意見が広がった。
さらに今起こっているのは「コロナの感染拡大に伴ったライブの中止」である。みんな慎重になって開催を始めているのに…それをパフォーマー自身が軽はずみに言ってしまうとお客さまに「やっぱり無理じゃないか」「やっぱりまだじゃないか」と思わせてしまう。そうなるとまたお客さまはコンサートホールから離れていく。また一歩わたしたちからステージが遠ざかる。
しかも、そうやって(彼ら自身にとって)大きなステージをキャンセルしている人たちのSNSを見ていると、小規模ではどんどん再開しているのだ。おそらくコンサートホールなんかよりももっと3密が揃うような場所で!
ということは、どういうことか。というと、「チケットが売れていない」のである。チケットが売れていないのはもしかしてもしかするとコロナのせいなのかもしれない。(だいたいは普段から売れてなさそうだが)
だから今コロナのせいにしてしまってやめてしまう。そうすると今なら大概のコンサートホールはキャンセル料もいらない、スタッフの人件費もかからない。チラシ代くらいだろうか?
しかしよく考えてみると、じゃあその人件費を払う予定だったスタッフの人たちはどうなるんだ?コンサートホールの収入は?という事実にぶち当たる。その決断で多くの人の仕事がなくなるという舞台人としては当然の思考に至らないのか。
もしかすると、多くの人に支えられてステージに立たせていただいている、という感覚が大きく欠落しているのかもしれない。
こんな奴らに限ってもっともらしく被害者ヅラしながら「自分たちはかわいそうだ」とアピールする。正体不明のウイルスに心の底から脅えていた2月、3月とはもう違うんだ。もう「With コロナ」の時代が訪れているのに。
非常に不愉快だ。
正直に「チケットが売れていない」と言えよ。「チケットが売れるために最大限の努力をしない」「チケットが売れない」んだったら興行を打つなよ。
たった一人の人間の見栄で、長い目で見ると多くの舞台人を止めさせる。
そんなやつはとっととステージから降りろ。どんな状況下でもチケットを売るタフさのないやつ(これは自分のためだけでなくチームのために)は舞台人には向いていない。
みんなまとめて1つの作品を作り出していることをわたしたちはもう一度確かめないといけないと思う。