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フィッシュマン1話 創作大賞応募 海を守る魚のヒーロー 環境問題がテーマ

むか~し、昔。
今から約38億年前。
海の中に小さな命、細胞が生まれました。

細胞は、体を2つに分列させて数を増やしました。
増えた細胞と細胞がくっつき合うと、長い時間の中で形が変わり、様々な生き物へ進化しました。

5億年前。
海の中に小さな魚が現れ、数百匹の群れを作って暮らしていました。

魚達は、弱い生き物でした。

この頃の生物は目と口を持ったので、小さな魚は大きな生き物に食べられていました。

それでも魚達は沢山の卵を残し、命を繋いで進化しました。

3億年前には、生き物の種類が増えました。最も種類を増やしたのは、弱者であった魚だったのです。

小さな命を繋いで進化して、厳しい環境を生き抜ける能力が身に付いたのです。

地球上で、最も強い生き物は魚でした。

「俺達は卵を残し、命を繋ぐギョギョ!
生き残りを掛けて、戦うギョギョ!」


時間は流れ、魚の進化は続きました。
魚から両生類へ進化すると、爬虫類、哺乳類へ進化しました。

今から約3万年前。
地球の環境は変わりました。考える力を発達させた、人間が現れたのです。

地球に生きる、最も強い生き物は人間へと変わりました。


2024年、現代・・。
海には、人間の作ったゴミが流れています。

動物達は進化して、環境を生き抜ける強い力を持ちましたが、人間の考える力には敵いません。

それまでとは違う形で、沢山の動物が滅びました。

自然が引き起こした動物の絶滅は、新しい動物へ進化する 大きな可能性がありました。

人間が関わった動物の絶滅は、次に動物が進化する可能性を奪います。

何も生み出す事のない、人間による動物の絶滅が始まりました。

ブクブクブクブク・・。

暗い海の底で、声が響きます。

「5億年前から繋いだ命、無くしてはならないギョギョ・・」

この物語は、海を守る魚戦士の物語。


ミーン ミーン ミーン ミーン

「あ~、外は暑そう・・。」

今日は、セミの鳴き声も溶けそうな真夏日だ。
僕は暑いのは嫌だけど、夏休みが始まった事は すっぎょい嬉しい!
エアコンが効いたリビングで、テレビでも見て、のんびり過ごそう。

僕のお気に入りチャンネルは、GYONHK。
魚や海の特集が多いんだ。

「続いてのニュースは、ギョギョギョな あの先生に お願いしましょう!どうぞ!」

「ギョッギョギョ~!」

「あっ!サカナ先生だ!」

僕の大好きな、魚類学者の【サカナ先生】がテレビに登場した。

「ギョギョギョ!皆様、海を見て下さい!
海岸には、沢山のギョミが落ちております!50年後の海は、お魚ちゃんよりギョミの量が増えると考えられているのでぎょざいます!!ギョギョギョーー!」

また、このニュースかぁ。
海の環境問題は、頻繁にニュースに出てくる。

ゴミ問題は深刻な問題だって世界中に伝えているのに、毎日 川からゴミが流れて海は汚れていく。

僕が、そう思った時だった。

「うるさいぞ!音下げろ、広海。(ひろうみ)」

「えっ・・。」

僕がソファから起き上がると、お父さんが立っていた。

「お父さん、いたんだ・・。」

「しばらくは、家で仕事をするから静かにしろよ。夏休みだからって、ダラダラするな。」

「えっ・・。」

「お前は学校の授業についていけてないだろ。駅前の学習塾に・・」

ぎょえっ!また、その話!

僕は賢くはないけど、【これは、逃げるべき!】っていう時には、すぐに頭が働くんだ。

「あっ、そうだ!自由研究の本を予約してたんだ!図書館に行ってくるね!」

僕は立ち上がった。

「いってきます!」

慌ててリビングから出ると、もわっと暖かい空気が流れた。

あっつ~!

それでも、涼しいリビングより学習塾が嫌な気持ちが勝った。
僕の頭の信号が、【外へ逃げよ!】と発信している。
携帯電話を持っている事を確認して、僕はドアを開けた。

バタン!

「あぁ・・、最悪。」

ミーン ミーン ミーン

きっとセミ達も、「人間の世界って、最悪だよな」って言っているよね。
うん、その通りだよ。

「暑いっ!」

ボーッとしている場合じゃない。
僕はセミみたいに、コロッと死ねない人間なんだ。ここにいたら、干からびて苦しむだけ。

僕は、マンションの階段を駆け下りた。

「なんで、お父さんがいるんだよ~。」

思わず声が出る。
せっかく夏休みが始まったっていうのに!
最悪な学校から抜け出せたのに!

なんで僕だけ、こんなに運が悪いんだよ!
きっと僕は産まれる前に、クジ引きを間違えたんだ!
僕は、どう考えても人間に向いていない!

ミーンミーン ミーンミーン

「セミは、最高だぜ!広海も、セミに生まれれば良かったのにな!」

セミ達が僕に声を掛ける。

うん、そうだね。セミでも良かったね。
でもね、セミには悪いんだけど 僕はやっぱり魚がいいんだよね。

ミーンミーン! ミーンミーン!

「セミのが良いに決まってるだろ!
セミ最高!セミを、なめんな!」

そう言われながら、僕は図書館まで早足で歩いた。


「暑いっ!あっつ~!」

何度も暑いと呟いて、やっと図書館に着いた。

彼女どころか友達もいない僕の居場所は、いつでも図書館。

誰でも無料で入れる涼しい図書館を作ってくれた皆様、本当に有り難う!

「涼し~!」

中に入れば、クーラーがあるだけで別世界だ。
児童書籍のエリアを見渡しても、小さな子を連れたお母さんしかいなくて安心した。

「ふぅ~。」

僕が向かう所は、いつでも決まってる。
魚、水の生き物、そして古生物の本が並ぶ本棚。

「あれ?新しい図鑑?」

【ギョギョギョな魚の進化図鑑】

僕は本棚から、この図鑑を取り出した。

こんなの、今まであったっけな?
どんな図鑑でも、魚の事が書いてあるなら読んでみたい。
僕は この図鑑を持って、窓際の席に座った。

図鑑の中には、不思議な古代魚の物語が描かれていた。

「フフフ。変なの!」

思わず笑っちゃった。
古代魚達が心を持った世界が描かれている。

大昔の事って、本当の事は誰にもわからないんだよね。
だから人間は、化石を元に想像する。
大昔は、どんな世界が広がっていたんだろうって。

僕は1つだけ願いが叶うなら、お金持ちになる事も、女の子にモテモテのイケメンになる事も、皆に憧れのハリウッドスターになる事も興味は無い。

【大昔の世界を見たい。
海に生きていた、古生物に会いたい】

人間が現れる前は、動物は命を無駄にせずに生きられた。
だから僕は、人間は現れなくて良かったと思っている。

僕が過去に戻れるなら、類人猿が人間に進化する事を阻止するだろう。
そして、動物達が豊かな自然の中で生きられるように未来を変えるんだ。

「・・そんな事を思ったところで、どうにもならないけど。」

ガタン!

僕が呟くと、隣の席のイスが動いた。

「広海じゃん!」
「えっ?」

世界で1番会いたくない生き物が目の前にいた。それは、進化した人間とは思えない性格の悪い生物だ。

クラスのリーダーの男子2人。
いつも2人で連んで、おとなしい男子を子分にしているんだ。

この2人と遊ぶ位なら、ゴキブリの仲間になったほうが幸せだ。

「広海!今年も自由研究は魚の研究にすんの?また兄貴にやってもらってさ!」

「・・違うよ。僕がやったんだよ。」

「去年の魚の研究は、兄貴にやってもらったんだろ?汚ねぇよな~。」

「違うってば。」

僕は、図鑑を持って立ち上がった。

「待てよ!」

そう言って奴らは、僕から図鑑を取り上げた。

「やめてよ!」
僕は取り返そうとした。

「あれ?」

すると、図鑑が彼らを避けるようにスルリと手から落ちたんだ。

「君達、もう少し声を小さくしてね。」

本が落ちると同時に、図書館で働く司書が僕達に声を掛けた。

「あっ、はい。」

2人は、僕から顔を反らした。
その時、僕の頭の中から信号が発信された。

【図書館から逃げよ!】

ガタンッ!

「あっ!広海が逃げた!」

僕は、図書館を出て走った。
本は落としたままで、イスまで倒して出てきちゃった!
図書館で働く皆様、ぎょめんなさい!

でも不思議な事に、本が落ちる音は聞こえなかったんだ。


「はぁ、はぁ。」

少し走った僕は、コンビニの角を曲がると同時に後ろを向いた。

・・誰もいない。
僕は、日陰を探しながら歩いた。

思い出したくない事が、頭の中に浮かぶ。 

キーンコーン カーンコーン

「今年の自由研究の優秀賞は、蒼井君の【古代魚の研究】に決まりました。
とても詳しく調べましたね。」

先生がクラスの皆の前で、そう言ってくれて嬉しかった。

夏休みの宿題は、数学や国語の問題集は中途半端で終わったけど、自由研究だけは時間を掛けて頑張ったんだ。

図書館で、図鑑を借りれるだけ借りた。

もっともっと魚の事を知りたくて、貯めたお小遣いを持って古本屋さんを回った。

10冊以上の図鑑を集めて、【魚の進化の歴史】についてを夢中で調べた。

【自由研究なら、賞を取れる!】
僕は自信があったんだ。

「おめでとう!」

先生がそう言って、あの時は皆が拍手をしてくれたのに・・。

休み時間になると、僕の自由研究の紙はアイツらによって破かれた。

ビリビリッ!

「おい、広海!これ、兄ちゃんにやってもらったんだろ。
お前の兄ちゃんは、去年 賞を取ったんだよな。」

「違うよ!破かないでよ!」

「広海の兄ちゃん、頭良いもんな。
汚ねぇよな~。兄貴がやった自由研究で賞を取ってんだぜ。」

「違うってば!僕が、やったんだよ!」

ビリビリビリッ!

「あーあ~。また、やられてるよ~。」

女子の声が聞こえたけど、僕を助ける人は誰もいなかった。

僕の自由研究は、ボロボロに破かれた。

先生はアイツらを叱って、紙をテープで貼り付けてくれた。

その時、先生は僕に言った。

「人を傷つける人間っていうのは、自分にとって都合の良さそうな相手なら誰でも良いって考えるの。
何も言わずにいると、相手の思い通りになってしまうから気をつけてね。」

「はい。」

「ただ、やられた嫌がらせを返せば、また自分に返ってくるわ。
だから、同じ事をしてはダメよ。同じ仲間になってはいけないの。」

「・・はい。」

先生の言う事は、頭ではわかる。
でも、気持ちは納得がいかない。

僕はこの事が悔しくて、良い仕返しの方法を考えた。

「お母さん。僕、魚検定を受けたい。」

魚検定は、どれ程の魚の知識を持っているかに挑戦する試験。

大人でも難しい試験だけど、ずっと受けてみたかったんだ。

お母さんは、僕に協力してくれた。

試験を受けてから、約2カ月後。
僕に、通知が届いた。

それは、【魚検定一級 合格】の通知。

「やった!やったー!」

自慢してやる!大人だって、難しい検定なんだ!一級を取れる中学生は、数える程しかいないんだ。



キーンコーン カーンコーン

休み時間になると、僕は思い切ってアイツらの前に立った。

「ねぇ!僕、魚検定一級を取ったんだ。
大人でも難しい、一級を取ったんだよ。」

「はぁ~?なに、それ?
どうせズルしたんだろ。自由研究みたいにさ。」

「違うよ!ズルしてないよ。」

「じゃあ、見せてみろよ。一級ってやつ。」

僕は、ファイルに入れた 一級の通知を差し出した。

「貸せよ。」

「やだよ。見せるだけだよ。」

僕は、絶対に渡したくはなかった。

「やめてよ!やめてよ!」

でも、2人の男子につかまれて 僕の通知表は奪われてしまった。

「何だよ、これ?
どうせ、自分で作ったんだろ。
広海は、歴史の人物も数学の方程式も、四字熟語も全然覚えられないじゃん。
暗記ができないのに、検定に受かる訳ないだろ!」

ビリビリッ!

そう言って、僕の通知表を破いた。

「何が、魚検定だよ!そんなの何の役に立つんだよ!
こんなもん取るより、学校の成績を上げてみろよ!」

僕は その言葉を聞いて、お父さんの事を思い出した。

「魚の知識があっても、良い大学に入る為には学校の勉強ができなければならない。
魚検定は、社会に出た時に役に立つ資格ではない。」

魚検定一級より、学校の勉強のが大切だって。魚に夢中になるより、学校の勉強をしろって。
お父さんは、全く喜んでくれなかった。

僕は大好きな魚の事は、いくらでも覚えられる。でも、学校の勉強はできない。

人気の芸能人やゲームも知らないから、僕はクラスで孤立していて友達がいない。
だから、誰も僕の事をかばわない。

僕は、ますます学校で嫌がらせを受ける様になった。物が無くなる様になって、大切な図鑑も切り刻まれた。

先生は犯人を探して叱ってくれたけど、学校へ行きたくない気持ちは膨れ上がった。

それなのに、翌年には担任の先生が代わってしまった。

新しい先生は僕の上履きが無くなっても、新しい上履きを出しただけで何も聞いてこなかった。

前の先生に相談したかった。でも先生は、妊娠中で学校を休んでいる。
僕の味方はいなくなった。

「学校に行きたくない。」

お父さんは、そんな僕を許さないだろう。

「社会は、学校よりも厳しい。
子供を甘やかすと、社会に出れない大人になる。」

お父さんは、お母さんに そう言った。
それでも、お母さんには気持ちを伝えたかった。

・・でも、言えなかった。

「いじめられる子って、気弱そうな子なのよね。」

いじめで自殺した子のニュースを見て、お母さんは言った。

僕は いじめられている自分が悪いように思えて、何も言えなかった。


ミーンミーン ミーンミーン

外を歩く僕は、セミにも相手にしてもらえない。
セミは、自分以外の誰かを気に掛けたりなんかしないよね。

短い命を、精一杯生きているんだから。
だから、僕は動物が羨ましい。

短い命でも迷う事なく、必死で生きられるならそれで良い。野生動物の命は、他の動物の命に繋がるから。動物の命に、無駄な命はないんだ。


サザーーーン!
波の音が響く。

港に着いた。
もう、ここしか居場所がない。

今日は、休日だから漁師さんはいない。

僕は海を覗いた。

「幼魚が見れるかな?
魚の赤ちゃんって、可愛いんだよね。」

僕は、可愛いダンゴウオの幼魚を思い浮かべた。

その時だった。

「ちくっしょーー!」

可愛いさのかけらもないオジサンが、僕の目の中に入った。

オジサンは、網状のカゴの中を眺めている。この場所では、漁は禁止されているのに。

僕は、嫌な予感がした。
ここを離れるべきだと思うのに、頭の中の信号は【確認せよ】と言っている。

「魚はこれだけかよ。しけてんなー。」

やっぱり・・。あの人は、釣りをしている。

座り込んだオジサンは、バケツから魚を出して放り投げた。魚は海には落ちなかった。

僕の目に、一番見たくない光景が映った。
地面には、小さな魚が沢山転がっている。

離れていても、僕にはわかる。
魚達は呼吸ができず、暑さと一緒に苦しんでいる。

「ひどい・・。」

「あ~、だめだ!雑魚ばっか。金にならん!」

僕の頭の中から、信号が発信された。

【魚を助けよ!】

僕は、知らない人には関わりたくない。
とはいえ、魚が傷つけられるのは 自分の事のように苦しい。

声を掛けるのは嫌だけど・・。
でも、魚達は声にならない声で叫んでいる。

「助けて!」って。

僕は、恐る恐る近付いた。

「あの・・。魚を、海に戻してもいいですか?」

「あぁん?何だ、お前。」

面倒臭そうな顔で、オジサンは言った。

「えっと、あの・・。ここでは、釣りはできないって看板が出ているんです。」

僕は、【釣り禁止】の看板に指を向けた。

「大人なら、気付いているでしょ?文字が読めないの?」

そう言ってやりたかったけど、我慢した。

「わかってるっつうの。通報すんなよ。」

やっぱり!このオジサンは気付いていた。
この人は、本物の悪者だ。

「餌を変えるか。」

そう言って、オジサンは僕を無視した。

ガサッ、ボチャン!

オジサンは足元に散らばったゴミを、海へと蹴り飛ばした。

「・・・。」

ダメだ。この人は話が通じない。

僕はオジサンの後ろへ下がると、足下に落ちている魚を静かに海へ戻した。

そして、停留している船の陰に隠れて座った。

こんな時は、便利な携帯電話の出番。
大人の問題は、大人同士で解決してもらうしかない。中学生の僕では危険すぎる。

警察に電話をするなんて、初めての事で緊張する。でも、海岸は厳しく取り締まって欲しい。
いつ来ても、釣り糸や空き缶、ビニール袋が散らばっているんだもん。

プルルルル・・ガチャ!

「こちら、東警察署です。」

「あっ、あの、えっと・・。
海に変な人がいて・・」

電話が繋がった途端に慌てた僕は、思わず立ち上がった。

その時だった。

「通報すんなって、言ったよな?」
「えっ?」

気付いた時には、遅かった。
僕はオジサンに後ろから掴まれて、持ち上げられた。小柄な僕は、あっという間にオジサンの腕の中に入った。

「うわぁ!」

携帯電話は、取り上げられた。

「生意気なガキだな!」

「離して!離して!」

「あぁ、すぐに離してやるよ!」

そう言って、僕を運び出した。
タチウオの様に細身の僕は、力では抵抗できない。

「やめて!やめて!」

これは、学校と同じだ!
この人はアイツらと同じで、人を傷つける事を何とも思わない生物だ!

まずい!どうしよう!

「理解力のない人に関わってはダメよ。
相手の発言が正しければ、暴力で抵抗する人がいるの。」

お母さんに、そう言われたんだ。
正義が勝つのは、漫画の中だけ。
何もしなきゃ良かったんだ!

「やめてよっ!離して!」
「黙れ、ガキが!」

オジサンは、聞く耳無し。
いや、理解力が無いんだ。

人間の中には、子供のままで大人になっちゃった人がいるんだよ。
今は、そんな事を考えている場合じゃないんだけど。

オジサンは僕を海まで連れて行くと、ゴミを捨てるみたいに放り投げた。

「ガキのくせに、大人に逆らうな!」

「うわっ!」

バシャーン!

あっという間に、僕は海へと落とされた。
オジサンにとって、僕はゴミと同じなんだね。

ゴボゴボゴボ・・。

海に落とされた僕の目の前には、オジサンが捨てたビニール袋が浮かんでいた。

これを食べたウミガメが、沢山死んでいるんだ。

うぅっ!

ゴボッ、ゴボッ、ゴボッ!

鼻に水が入って痛い!上手く息ができない!
海から這い上がれない!

ウミガメは、こうやって死ぬのか!最悪だな!
僕がウミガメなら、絶対に人間を許さない!

苦しいっ!マジで死ぬ!

死にそうになって、わかった!
僕は、まだ死にたくない!
助けて!誰か、本気で助けてっ!

助けて・・。

ゴボゴボゴボ・・。

ウミガメは、助けてを求めても助けてもらえない。それは、僕も同じだ。学校だって、そうだ。

僕の目の前は、真っ暗になっていった。

小さな頃に見た、絵本の海の中はキレイな青色だった。でも、実際の海の中は真っ暗で、出口のない暗闇だ。

美しいと思われる海の中は、人間の命を簡単に奪う。
本当に強い生き物は、人間なんかじゃない。
最後に地球に残るのは、人間ではない動物だと思う。

動物達は、人間には持てない優れた能力を全身で発揮できるから。

動物達は、いつだって生きる事に迷いはない。真っ直ぐな気持ちで生きている。
だから、僅かな可能性の中でも進化できたんだ。
僕は、そんな動物達を尊敬している。

僕は知力を持った人間なのに、環境に適応できる能力が無い。人間の能力を生かせていないって事なんだ。

あ~ぁ・・。 
僕は、海を泳ぐ魚に生まれたかった。

体を守る、魚のウロコが欲しい。
水の流れに合わせて泳げる、胸びれと背びれが欲しい。
厳しい環境を生き抜ける、魚みたいな能力を持ちたかった。

だから僕は思う。
雑魚だなんて、そんな魚はいないんだよ。
君達は人間よりずっと、たくましい生き物なんだ。

「おい!前置きが長いと、読者が離れていくギョギョ!
悲劇の主人公を演じていないで、サッサッとこっちに気付くギョギョ!」

「えっ?」

何だ、今の声?

「んんっ!?あれは、何だ?」

遠くで、何かが動いている。

それは暗闇で、少しずつ姿を見せながら こっちへ近付いてくる。

「よっしゃ!決めポーズいくギョギョーー!」

突然、元気の良い声が聞こえた。

「俺達はーー!」

「5臆年前から命を繋ぎ、進化した魚しぇんし・・!」

「・・・・。」

「・・・。」

ブクブクブクブク・・。


あれ?

なんだろう?急に声が止まった・・。

すると、薄暗い中で何者かが わちゃわちゃと騒ぎ始めた。

「ギョギョーー!大事なとこで噛んだギョギョ!」

「しぇんしでは、ないギョギョ!
戦士ギョギョ!カッコ悪いギョギョ!」

「広海、もう一度やるから、ちょっと待つギョギョ!」

「えっ?あっ、はい!」

僕は、思わず返事をした。

何だ?何だ?一体何なんだ?

「広海!もう一度いくギョギョ!
よ~く見ておくギョギョ!」

「あっ、はい!」

何だかわからないけど、もう1回始まるらしい。

「俺達は、5臆年前から命を繋ぎ、新しい生き物へと進化した魚戦士!」

「第1戦士、ミロクンミンギア!」

「第2戦士、サカバンバスピス!」

「第3戦士、アンドレオレピス!」

「第4戦士、クラドセラケ!」

「第5戦士、ティクターリク!」

「み・ん・な・そろっ・て、ギョニュー特選隊!」

【チャキーーーン!】

「決まったギョギョ!」

自信満々で、なんかが出てきた。

「・・・。」

僕は、黙った。

【なんか言えよ】と言いたそうな雰囲気が流れているけど、僕は黙っていた。

ゴボゴボゴボ・・。

海の音は、今も聞こえる。
僕が海の中で生きているのは間違いない。

・・う~ん。
きっと、これは最後の夢なんだ。

神様は、僕の人生の最後に願いを叶えてくれたんだね。

それなら、僕も張り切っていこうじゃないか!

「クラドセラケ!?
4億年前に生きていた最古のサメじゃん!」

僕は、大きな声を上げた。

「そうギョギョ!
答えるのが、遅すぎるギョギョ。広海なら わかるはずギョギョ。

俺達は5億年前から戦い抜いて、命を繋ぎ進化した古代魚ギョギョ。」

「うん!わかるよ!
5億年前、最古の魚が現れた!
そこから、魚の進化が始まったんだ。

4億年前に現れたサカバンバスピスは、ウロコを持った。
次に現れたアンドレオレピスは、アゴを持って更に進化は続いた。

サメは、昔から上手に泳げる体だったから、ほとんど姿を変えずに現代まで命を繋いだ。
ティクターリクは、両生類の進化に繋いだ魚だよね。」

「さすがギョギョ。
広海は、フィッシュマンに選ばれただけの知識を持っているギョギョ。」

「フィッシュマン?」

「そうギョギョ。
そのフィッシュスーツを身につけたなら、頭に付いたギョっちゃんが魚の能力を引き出すギョギョ。
今 海の中で話せるのも 、ギョっちゃんのお陰ギョギョ!」

その時だった。頭の上で何か動いた。

「ギョギョ!」

僕は もう死んでいるはずなのに、この声は頭の中で元気良く響いた。

「何なの?この声?」

するとクラドセラケが、僕の顔に近づいた。

昔のサメは、現代のサメよりも口が前に付いている。そんなサメの姿も、僕は好き。

「広海よ!全身を触ってみるギョギョ!
スペシャルボディへと、パワーアップしたギョギョ!」

「はぁ?スペシャルボディ?」

「そうギョギョ!
ウロコ、背びれ、胸びれが付いているギョギョ!」

「えっ?」

僕が腕を眺めると、本当に魚のウロコが付いていた。

「あはは!何これ?
僕は魚なの?面白い夢だね!」

「広海、お主にフィッシュマンの力を与えたギョギョ!
海の生き物の命を守るヒーローとなるギョギョ!」

「はぁ?何言ってんの?」

訳がわからない僕の事なんてお構いなしに、特戦隊は全員で僕をつかんだ。

「いくギョギョ!
フィッシュダイブ、ギョギョーー!」

「えぇ!?」


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