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あなたが悲しいのなら

スクリーンを眺めるあなたは泣いていました

花である私は、花瓶からあなたを見ていました

何もできないですが

悲しむあなたを見て、一緒に泣きたい気分になりました

体中から水が失われていくようでした

あなたは予想外の涙にとらわれたようでした

優しい表情の奥底に

誰にも気づかれぬよう

しまっていたのに

意図せずに指が触れて

蓋が開いてしまったかのように

あなたの涙はとまらないようでした

あなたがずっと堪えていたことを

私は余計に悲しく思いました

冷静な月が出ても

黒い雲が覆っても

あなたの心が悲しいのなら

悲しいままで

流れる涙はそのままで

時に際限なく

どこまでも

悲しいことがあると

私もどこかでわかっているつもりです

あなたを

抱きしめることも

声をかけることも

花である私にはできないけれど

あなたの悲しみと沈むように

頬をつたう涙の分だけ

私はこの身をめぐる水を失って

枯れていくだけ

カラカラに乾いてゆくその心に寄り添うように

大切なあなたの立つこの大地が

新しい花を咲かせるその日を願って

私は今は静かに枯れていくだけ