ワイングラスをクルクル回す理由
〜ワイングラスをクルクル回すスワリング〜
レストランで見かけるソムリエさんがワイングラスをクルクル回す動作の”スワリング”の理由をご紹介いたします。
語源は、英語のSwirlの”渦を巻く”という動詞の現在進行形で、Swirlingスワリングです。
これを行う理由は大きく3つあります。
①ワインに酸素を取り入れて味わいの変化をさせる
②立ちにくい香りを立たせている
③還元ワインへの処置
①ワインに酸素を取り入れて味わい変化をさせる
ワインに酸素を入れることにより液中の有機酸とポリフェノール(渋味成分)などの値を下げることができます。酸味と渋味が下がるということは、ワインをまろやかになるということです。
ただあまりやりすぎてしまうと、味わいの構成のバランスが崩れてしまうので、あまりやり過ぎないようにしましょう。
ちなみに”ワインの酸化”=”酸っぱくなる”ということではありません。あくまで酸素との化学反応が進んだということです。グラスに注いだワインが翌日酸っぱくなっていたという経験があると思いますが、これはワインに含まれる糖分やアルコールを原料に、バクテリア🦠が「酢酸」という、すっぱい酸に変えているためです。
②立ちにくい香りを立たせたい
前提としてワインには
「第一アロマ」葡萄由来の香り
「第二アロマ」醸造由来の香り
「第三アロマ」熟成由来の香り
というものがあります。ワインをグラスに注いだ時に1番揮発しやすいのは、第一アロマです。フルーツやお花の香りです。スワリングをすることにより、香りの粒子の重さの関係で、続く第二アロマ(ヨーグルト、バナナ、キャンディ、杏仁)や第三アロマ(樽、熟成香、土、木の子)の香りが揮発していきます。
ソムリエのコンクールなどでは、できるだけ早く香りを立たせて表現したいため、スワリングを多くしていますが、レストランでゆっくりと味わう時にはあまりせずとも、時間と共に立ってくるので、必ずしも必要ではありません。
③還元ワインへの処置
還元とは酸化の反対の言葉です。ワインは醸造や熟成の段階で酸素と触れ合わないようにすると、卵や硫黄のような香りが生じることがあります。これはオフフレーバーという良くない香りのひとつになります。
以下、化学的な説明です。飛ばしていただいても大丈夫です。
【還元状態の原因としてはアルコール発酵段階で、酵母の生育に不可欠な「酵母資化性窒素」が不足すると、酵母は「含硫アミノ酸」を資化し「硫化水素」を発生させます。この「硫化水素」は、ゆで卵、硫黄の香りと表現されます。ワインの熟成段階で酸素供給が制限された状態が続くと「硫化水素」から「メルカプタン」類が生成されます。メルカプタンはタマネギ、硫黄、ゆで卵、たくあんなどの香りと表現されます。】
還元臭はワインを開けた時には感じますが、空気と触れることで拡散したり、徐々に弱まったり消えて行くことが多いので、スワリングやデカンタージュ(デカンタという容器に移すこと)で十分空気と触れさせることが大切です。
理由を知っていると、スワリングを”やるべきワイン”や”やるべき時”があることがわかります。
例えば、ソーヴィニョン・ブランに含まれるグレープフルーツのような香りは、3-メルカプトヘキサノールという物質に由来しますが、酸化に弱いという特性を持っているので、せっかくの良い香りが無くなってしまいます。
スパークリングワインもスワリングにより、泡が飛んでしまいます。
シェリー酒、マデイラ酒や、マルサラ酒、ポート酒といった酒精強化ワインと呼ばれるアルコールが高いワインは、スワリングによりフルーツ香よりもアルコールが立ってしまうためオススメできません。
特別な理由がない限りレストランのテーブルではあまりスワリングをしない方がワインを美味しく飲めるかもしれません。
しかしやり方やマナーもありますので、ご紹介しておきます。
まずは、注がれたワインは、スワリングをせずに香りを嗅ぐようにしましょう。その後必要とあらば3回ほど回せば十分です。
マナーとしては、回す渦の方向が大切で、
右手で回す場合は、反時計回り
左手で回す場合は、時計回り
これは、万が一ワインが跳ねてしまった時に、相手ではなく自分にかかるようにするためのマナーです。
はじめはテーブルの上でグラスを回してみましょう。慣れてきたら空中でも回してみましょう。
グラスの脚の下の方を持つとエレガントに見えます。
日本ソムリエ協会の方には、「スワリングはNG」と言っている方もいらっしゃいますが、理由をしっかりと理解していれば、僕はやるべき時にはやるべきだと思っています。
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