風のガーデン
「もしも君たちがなくしものをして、それがどうしても見つからなかったら、富良野に探しに戻っていらっしゃい。残雪の溶けた熟地のぬかるみに、君らの探しものは転がっているはず。」 倉本聰
先日、お話しした「優しい時間」に続いて、倉本聰のシナリオの「風のガーデン」を観ました。放送当時以来ですので15年ぶりになります。東京で麻酔科医をしている主人公が癌に侵されて、故郷、富良野に戻り家族との時間を取り戻して行く話しです。
主人公の麻酔科医、貞美に中井貴一、長女ルイに黒木メイサ、長男、岳に神木隆之介、主人公の父、貞三に緒形拳。とても豪華なキャスティングです。倉本聰の期待に応えるように、控えめだけれども、その人その人の人となりが心から溢れ出てくるような素晴らしい演技をしています。
主人公、貞美は癌に侵されていて余命いくばくもない、しかも、かつての女性問題の不祥事で父親からは勘当されているという、その設定自体はとても深刻なのですが、倉本聰のシナリオと中井貴一の天性のユーモアが、物語を時に笑いに包み込みます。
それは軽薄なのではなく、「人間はどんな境遇にあっても、ユーモアがあれば、その日一日一日を乗り切っていけるし、遠くにあるゴールを見失わないでやって生きていける。」というような強く優しいメッセージに感じます。
貞美と岳が再会する時、父親を知らない息子は父親を天使ガブリエルと思い込んでしまいます。慌てた父親は、自分を天使ガブリエルだと答え、そして、ガブさんと呼んでください、と答えてしまいます。愛とユーモアに包まれた、とても素敵な再会の場面です。
父、貞三との再会。ゆっくりと過去の糸がほぐれて行きます。不器用な二人が、その不器用な手を使って、辿々しく、しかし、丁寧に糸をほぐして行きます。
吉俣良の美しいテーマ曲をはじめとして異なる作曲家の曲で組まれているのに通して聴くと組曲のような仕上がりのサウンドトラックも見事です。
貞三が作って岳が語る、繊細で時に大胆な花言葉が、春の訪れを告げる風のように心に入り込んできます。自分でも折りに触れて花言葉をつくってみるのも良いかもしれないと思っています。
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