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『ピエロんの「ん?」な日々』第2話:増殖する「ん?」
「……なんやこれ」
ピエロんは立ち止まり、もう一度看板を見つめた。
「ん?限定 50%オフ!」
最初は単なる印刷ミスかと思った。でも、視線を少しずらすと、近くのポスターにも――
「ん?新発売!」
「ん?開催決定!」
「ん?募集中!」
「……いや、絶対おかしいやろ」
ピエロんはスマホを取り出し、検索してみた。
『ん? 現象』
検索結果はゼロ件。
「まぁ、そうなるよな」
試しにSNSを開くと、さらに奇妙なことになっていた。
フォロワーの投稿は、ますます「ん?」で埋め尽くされている。
「ん?」
「ん??」
「ん?ん?ん?」
……なにこれ、バグか? もしくは、変なネットミームが流行ってる?
そんなことを考えていたら、スマホが震えた。
【通知:メッセージ受信】
知り合いのAからだった。
A:「おい、ピエロん。これヤバいぞ」
ピエロん:「何が?」
A:「お前も気づいてるんだろ? 街が変だ」
ピエロん:「ああ、看板とか広告とか?」
A:「違う、もっとやばい。今から電話する」
ピエロんが返信する前に、電話がかかってきた。慌てて出る。
「おい、A、どうした――」
『ん?』
電話の向こうから聞こえてきたのは、Aの声じゃなかった。
……それどころか、声の主が誰なのかすら分からない。
ただ、冷たく、機械のように無機質な声が、一言だけ繰り返していた。
『ん?』
『ん?』
『ん?』
「おい、A! ふざけてるんか? お前、どこに――」
突然、通話が切れた。
「……っ!!」
ピエロんは、背筋がぞわりとした。
スマホの画面を見下ろす。通話履歴には、たしかにAの名前がある。だが、その隣に表示された通話時間は――
『00:00』
「…………」
いや、待て。どういうことや? 通話は確かに繋がった。なのに、時間が記録されていない?
ありえへん。
ピエロんは再びAにメッセージを送ろうとした。
しかし、そこには既にAの名前がなかった。
アカウントが消えた……? いや、それどころか、そもそもAという人物がいた形跡がない。
ピエロんの指が震える。
「……なんやねん、これ……」
その時、通りの向こうから、誰かの声が聞こえた。
「ん?」
振り向くと、知らない男がじっとこちらを見つめている。
「……っ」
次の瞬間、その男がスッと消えた。
まるで最初から存在しなかったかのように、音もなく、影も残さず――。
(第3話へ続く)
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