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街の選曲家#ZZ11Z1

先月定期的に書いていたこの選曲家を書けなかった。別に書けなくてもなんの意味はないのだけれど、体調を崩しベッドや床にのたうちまわりながら痛みや苦しみに耐えたりしていた。しかも床の場合は寒い。少しおさまったとても音楽を聞ける気分ではない、いや気分どころか聞ける状態ではなかった。耳に何かを入れたり着けたりするのも不快極まりなく、もっと言えばそこに存在する環境音以外を聞くのに耐えられない。こんなことがあるんだなと思った。私は音楽とともに生きているし、音楽がないと私の短い人生には喜びのひとつが欠落してしまう。そしてこんな事実に直面すれば健康は大切なものだと再認識するしかない。私はもうずっと治らない病気がいくらかあり、健康には限りがあるとも分かっている、だからできるだけ健康であればいいのだが、健康という記号にしがみつくのではなく、無理せずに対応できるような、例えば緩和ケアのようなものの重要性をあらためて思い知った。


運がよければいいことあるさ - 堺正章

能動的に歌謡曲を探していてリコメンドから発見したこの曲は、私が生まれていても記憶のないような子供の頃の曲で、私自身ネオGSは知っていても堺正章さんの在籍していたザ・スパイダースやGSブームは知らない。彼のタレントとしてのルーツについては父親のウンチクを聞いていて知っていたが、物心ついたときにはテレビタレントで俳優、西遊記の孫悟空だった。この曲をすぐに気に入ったのは音楽も歌も素晴らしく、知らなかった自分の世界を広げてくれたという確信に触れたからだ。聞けばスッと入ってくる歌謡ポップスではあるものの、どこかソウルというかモータウン風味があり、ホーンセクションがソウル感もポップス感をもさりげなく盛り上げていて、そして最初のギターや歌の世界観にカントリーの匂いも感じる。堂々とした堺さんのボーカルは若い爽やかさの中にソウルが感じられ、どこまでも広々とした情景が見えてくるようだ。牧歌的とも感じ、日本でありながらアメリカの風景のような広大なものを意識してしまう。それは歌と曲のハーモニーなのだろうか。とても完成されていると感じる。

曲は筒美京平さんらしく、王道というかやはり納得してしまう。元のアルバムも全て筒美さんで、アルバム自体にコンセプトがあるようで、この曲自体にも元ネタのようなものがあるという話も読んだ。筒美さんの素晴らしいのは、様々なものを歌謡曲というジャンルに落とし込んで、誰が聞いても心が浮いてしまうような、そういう曲にできる能力だろう。歌詞は青春というか爽やかさが強調されて、それでいて嫌みがない。いろいろなことがあっても空を見てスッと気持ちが晴れるような歌だ。こういう曲も好きだ。歌謡曲を聞きたいのは独特の曲や詞、歌唱スタイルのようなものがあると思うが、それらが私に染みついていてるのかやはり聞きたくなってしまう。もちろん曲もオケもボーカルも、アレンジも私の思う一線級のものをいつでも追い求めているのかもしれない。蛇足になるが堺さんは現在カトリーヌ・ドヌーヴさん主演の映画スピリット・ワールドに出演しているという。日本、フランス、シンガポールの合作で公開が決定している段階ではないが、俳優としての活躍も楽しみにしている。


お前次第ってことさ - □□□, the band apart

さて、□□□である。というか今回の細野さんでもあり、早速それに直撃してしまったが□□□を知ったのは細野晴臣さんのトリビュートアルバムだった。それで□□□に興味を持ちアルバムを聞いて好きなった。さまざまな風景や情景が見えるような音がちりばめられていて、さまざまなジャンルにとらわれない音楽という感じだった。その中心にいるのはどうみても三浦康嗣さんで、彼の独特の感性が作った世界なんだろうと直感した。そうしているととても大きなニュースがあった。日本のヒップホップ黎明期から活躍していて、聞き続けているいとうせいこうさんがなんと□□□に加入したのだ。□□□にもヒップホップの楽曲はあったので親和性も感じられたが、信じられないような、くらくらするような出来事だった。黎明期からずっと聞いていて業界くん物語BODY BLOW建設的は最高だったし、Real Fishというか矢口博康さんの抜けたサックスが最高でもあるジャンクビート東京はずっと私には続いていて、それらは多少世紀末への助走にも感じ、そにれそれこそPresident BPMこと近田春夫さんが主宰したBPMレーベルから発売された細野さんのCOME★BACKはもちろん細野さん込みで最高だった。そしていとうせいこうさんという存在と言葉というものに強く影響を受けているかもと思える。それは当時の日本語ヒップホップという意味も大きく、それを牽引した人という意味でもある。いとうさんの話になるとまだまだ続きも前もあり、とまらない。それほど私には落ち着けない話なのだ。

初めて入った制限のある音楽サブスクで□□□を検索してみると、持っているアルバムもYouTubeのようなもので聞いたことのある曲が入っているようなアルバムもなにもなく、ミニアルバムの前へがあった。それを飽きるほど聞き、その後好きなプレイリストに入れた。いつもの作業といえばそうだけど、楽しいことだ。そして最初にプレイリストに入れたこの曲はいとうせいこうさんのMCとthe band apartの演奏が気持ちよい。それが理由というのもあるけれど、特に淡々と高いレベルで繰り広げられる演奏はthe band apartを知らなかった私には開眼だった。演奏全体からなぜか高橋幸宏さんのパフォーマンスを思い出した。それはドラムの手法が同じとかそういう意味ではなく、幸宏さんプレイを通して感じる緻密さと同じように、リズムの正確さやグルーヴにいとうせいこうさんが繰り広げる熱いMCと表裏のように感じたのだ。静と動でありながら裏と表、そういうシンプルなのに複雑な表裏一体の気持ちよさがある。気持ちが走ってゆくような曲なのだ。もちろんMCも素晴らしくリリックもとってもいい。OLEDESMを聞いたときの感覚が蘇ったりもする。そしてずっと聞いていたくなる曲なんだ。


English Suite No. 3 In G Minor, BWV 808: Gavotte I - Gavotte II ou la musette - J.S. Bach, András Schiff

私は子供の頃はクラシックが身近にあり、クラシックを当時の風潮から親に嗜みとして聞かされたり、教育や知育の一部として聞かされたのもある。そして時を経るにつれてクラシックの中でもピアノ曲を多く聞くようになり、交響曲からは多少遠ざかった。だから今回貼った曲も一見別の音のはずでも結局はピアノに集約してしまう。どうしても好みの問題なのだろうか、それともこの曲がそういう曲だからなのか。それを考えるとバッハの名曲の膨大さが原因で、例えばこれがオルガンのための曲だったらどうだったのだろうと考える。バッハはバロック時代とか対位法とか音楽の父とか小学校の音楽室で習う人だった。小フーガやトッカータとフーガ、ブランデンブルク協奏曲、平均律クラヴィーアなどは有名で聞いていた。バッハのことを詳しく知らなくてもそれらの曲を聞くと複雑な対位法など論理的な美しさを感じ、荘厳で雄大、静かで知的という感情的な面も曲から感じる。有名な曲がありすぎるのでよく聞いたが、私のイメージは学校の音楽室の壁に肖像画がある人だ。そしてある日、何かのリコメンドで佐藤隆さんの『バッハの庭の片隅で』というアルバムに偶然出会った。そこで初めてバッハのイギリス組曲を知った。

この曲はイギリス組曲の第3番ト短調ガヴォットI,IIになるが、佐藤隆さんのアルバムで聞いたのはガヴォットIであった。初めて知ったがどことなく聞いたことのあるような曲で、もしかしたら子供の頃にあったガヴォット集のレコードに入っていたのかもしれない。この組曲自体グラヴィーアのための組曲らしいが、クラヴィーアがクラヴィコードなのか、チェンバロを含む当時の鍵盤楽器か、それともピアノまでも含むのかは分からない。だがクラヴィコードと仮定すれば、聞いた佐藤隆さんの演奏は同じ弦を用いても鍵盤撥弦楽器のそれとは異なるクラシックギターの温かい音色がとてもよく、素朴さもあり私に染み渡った。そういう偶然の出会いでそういう楽曲のそんな演奏に出会えたのは幸運だ。今回探しても佐藤隆さんの音源は見つからなかったが、OTOTOYにてハイレゾ、ロスレスアルバムの販売ページが見つかったので貼っておく。ここに貼ったYouTubeのリンクはピアノでも私が好きだと思えるイギリス組曲の第3番ト短調ガヴォットI(II)なので聞いてみてほしい。蛇足になるが、佐藤隆さんはシンガーソングライターとして、髙橋真梨子さんの桃色吐息の楽曲を提供した人だったのだ。子供の頃によく聞いた歌だったので感慨深かった。

バッハの庭の片隅で


10番街の殺人 - ザ・ベンチャーズ

ベンチャーズである。ベンチャーズは私が生まれたときから超有名バンドだったが、それに思いを馳せると浮き上がってくるのはベンチャーズの数々の曲、年齢が少し大きくなりそれを友達と話した時の充実感、そして恥ずかしながら多少電気ギターを習っていたという事実だ。その中でベンチャーズのダイヤモンドヘッドを一生懸命に練習した。エレキを手に取る人でベンチャーズのことを知らない人はいないだろうし、テケテケサウンドなど別に言うことでもないほどポピュラーだ。要するに彼らはエレキギターの巨大な存在でエレキの金字塔。なんかマジに人柱でも埋まってるんじゃないかと思えるようなパフォーマンスと存在感だ。そんな真実で冗談はいいとしても、世界を魅了した曲の数々は今でも色あせてはいない。それで検索し、この曲を先ずプレイリストに入れたのだ。

特徴的なフレーズで始まるが、聞いていると殺人という割にはとても爽やかでもあり力強さも感じる。そして何度も聞いて思ったのは最初の頃に印象深かったアルペジオはそんなにでもなく、やはりベースとリードのギターそのものの音の作り方がとてもいい。これはベンチャーズの曲に通して言えることだろうと思うし、それがベンチャーズなんだろう。そしてオルガンがこの曲におけるいいアクセントとになっている。もちろんテケテケサウンド含む熱くて冷静なリズムギターも、シンプルでいて時に象徴的、そしてリードを活かすようなドラムもいい。この曲がカヴァーとかそんなのは微塵も関係なく、これがベンチャーズと言える曲だろうと思う。そしてその後を考えると歌謡曲つながりでも出てきそうだが、やっぱりベンチャーズというのはこういう曲で、それをずっと聞いてきた。だからもう染みついているのだ。プレイリストに入れるのは名曲枠といってもいいくらい。ずっと聞きつづける曲。

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