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街の選曲家#Z1ZZ11

時に音楽は旅につれていってくれる。自分の中の旅だったり、音楽によって情景が浮かんだりする。自分の中の旅の補助や重要な役割としての音楽は、導火線に火がついたように感情や感覚がまた次のものを呼び起こし、次々と具体化されたり光景が見えたりする。いつもそんなに調子がいいわけではないが、時に音楽だけでも響き、歌があったら震え、歌詞が自分のまわりにふりそそぐ。そんな感覚はしあわせではないだろうか。音楽により情景が浮かぶのも同様で、細野さんの観光音楽ではないけれど、交響曲を聞き行ったことのない宇宙を感じたり、ピアノ曲を聞いて自然や物語のような感情の一面を知ったりする。その素晴らしさを思えば自分はなにを発しているのだろうと思ってしまう。偉大な芸術家でなくとも楽器を弾けたり歌を自在に歌える人は素晴らしい。人はそれぞれに役割とまでは言わずとも、なにかしらがあるとは思う。私にはなにがあるのだろうか、音楽を聞くとそう思う反面そんなことはどうでもよくなりまた旅に浸ってしまうのだ。

白樺の国 - LEO今井

LEO今井さんといえば、高橋幸宏さんが率い数々の有名ミュージシャンが集ったバンド、METAFIVEでその存在を知った。今となっては随分前のこととも思えるが、子供のころから追い続けている高橋幸宏さんのバンドなのでチェックしていたし、その音楽も絶妙な感覚があって好きだったし好きだ。ありがたいことに友達が抽選でチケットを取ってくれてライブにも行った。METAFIVEのメンバーの中でLEO今井さん以外の人たちは全員知っていたが、その知らなかった彼がMETAFIVEの一枚目のアルバムで幸宏さん以外のもう一人のボーカルでもあった。だからではないが、LEO今井さんに興味が湧いた。LEO今井さん以外の人たちの曲やアルバムはよく聞いていたり、少なくとも聞いたこともあったということもあり一番興味深かったのだ。

当時の制限付き音楽配信サブスクリプションで検索してみると唯一彼のアルバムではCITY FOLKというものがあった。それを一度聞いたらとてもよく、てローテーションに入れた。このアルバムはいろいろな人とのフィーチャリングがあり、奇をてらったようなものではなく骨太の王道な曲やサウンド、そして繊細で美しい歌詞もあった。ずっと集中して何度も聞いているわけではないけど、何度聞いてもMETAFIVEのボーカルの一人である印象を含みつつ、彼自身のとても大きな世界があるんだなと思えた。アルバムの中のすべての曲が好きとは言わないにしても、ほとんどの曲が好きで、ただ今回はこの曲を選んだだけだ。

この曲は題名の通り白樺の国を通し、その先の精神性の中を泳いでいるような、見上げているようなそういう曲だ。少し歌詞の言葉を逆に引用したようになったが、歌詞から感じただけではなく曲からもそういった世界を感じる。スタートからガツンと響くピアノと心情を淡々と語るようなアコースティックギターが象徴的で、曲としてはただアコースティックということではない。だが自然との調和や精神性の高い世界観と相まってアコースティックとの相性のよさを感じる。そしてドラムがとても特徴的だ。時にフレーズが印象的だと思うが、それ以上にサビに連打されるシンバルの音がずっとこころに響き、記憶に残っている。全体的に歌詞も詩的で、私にはとても好きなものだ。LEO今井さんのことを知らなかった人間が、ふと出会ったアルバムにより、いきなり彼の奥深さを知り、少し戸惑い、感激して繰り返し聞いているという嬉しさだった。それを今もずっと繰り返している。


wanna be tied - SALON MUSIC

子供のころ、とはいっても幼児や小学生ではなく、もう少し年齢が過ぎたある日テレビから流れてきた。それはホンダのバラードスポーツCR-XのCMで、その音楽が鮮烈に私の胸を突き刺した。YMOをずっと聞いていて、ニューウェイヴもいろいろ聞いた、その中でもまた新しい音が聞こえてきたと思った。それがSALON MUSICとの出会いで、CMからは全体像はよく分からなかったが、自分の嗜好にビンビンくる音楽というのは感じた。そして、CR-XのCMの音楽いいよね、と友人に話したらあまりいい感触がなくがっかりしたのを今でも憶えている。

その頃はお金に限界があり、すぐにシングルやアルバムは買えなかったが、雑誌などでの音のない多少の情報では、プラスチックスと同じようにイギリスからの逆輸入サウンドだということを知った。後に隣の大きな都市の中古レコード店でデビューアルバムのmy girl fridayを買えた。その中にはCR-XのCMソングで流れていたデュエットに夢中(You Know What (Wrapped Up In Duet))もSpending Silent Nightも入っていたし、後に12インチシングルを買ったHunting On Parisも収録されていて、聞けばすごいアルバムだなと思った。

メンバーは吉田仁さんと竹中仁見さんの二人で、曲目で仁さんと仁見さんとで分かれていて、それによりそれぞれボーカルなどの構成も違う。そして二枚目が発表されたのだが、そのアルバムのla paloma showがなんと高橋幸宏さんプロデュースによるものだと知り、そういう縁も感じたりした。もちろん購入して聞いて、最高のアルバムだと思っている。三枚目のtoplessと四枚目のthis isは後にCDで買った記憶だが、五枚目のo boyはちゃんと予約してレコードを買えた。

その後しばらくして聞いたのは、吉田仁さんが私のよく聞いていたフリッパーズギターのプロデュースをしていたということだ。先ほどの幸宏さんの流れと同じで、不思議な縁というか、どんなつながりがあるのか分からないなと思ってしまう。類友といえばそうなのだろうが、今では吉田仁さんといえばフリッパーズギターやほかのアーティストも含めたプロデューサーというイメージも強いようだ。しかもフリッパーズギターの前身のロリポップソニックの音源が仁見さんに渡り、それが仁さんに届いたということを随分後に知った。そういうつながりの素晴らしさも感じる。

思い出ばかりがほとばしっているが、この曲はふとある日SALON MUSICを聞きたくなり、制限付き音楽配信サブスクリプションで検索したらM★A★S★Hというアルバムだけがあった。それをヘビロテして聞いて思ったのは、耳の奥から入ってきて目の前に広がる光景はニューウェイヴではないということで、それは別に悪い印象ではなく、シューゲイザーともいえるサウンドで夢の中を感じるものだった。それにほとんどの曲を仁見さんが歌っていて作曲も仁見さんのようだった。そういう音の変化やバンドの変化を感じつつ、聞いている時点ではもう少し過去のものだったりもした。

そしてこのアルバムの中でも一番シューゲイザーっぽいのがこのwanna be tiedだろう。夢の中のような、漂うような感覚があり、音の重なりが印象的で、どこかフリッパーズギターのような音も聞こえてくる。このアルバムとそれが同時代かは分からないが、どちらも仁さんが関わっているし、それも不思議ではないのだろう。仁見さんのボーカルも夢の中から響くような歌で、バックのサウンドと相まってとても流動的にも感じ、夢心地になってしまう。とてもいい再会だったと当時も思ったし、ずっと聞いていて、今もそう感じている。


The Typewriter - Leroy Anderson

ルロイアンダーソンと聞けば誰もが知っている系音楽の作曲家というイメージがある。それにとどまらず、吹奏楽やビッグバンドでも演奏されているイメージもあり、様々な音源は様々な場所で使われていて、彼の名前を知らなくとも誰もが多くの曲を一度は聞いたことがあるはずだ。私も同じようなもので、彼の名を意識して聞きはじめた後でも、これも彼の曲だったのかという驚きを感じたことはあったし、彼の曲にあちこちで出くわすことも多かった。

有名な曲が多く、例えば邦題がトランペット吹きの休日というBugler's Holidayなどは運動会の曲だという人もいるのではないか。時代が違えば運動会も違うのだろうが、YMOのライディーンが運動会と言われてもピンと来ない世代だし、もちろん運動会がそれだけではないのも分かっている。以前トランペット吹きの休日とはいっても全然休めてない、というネットの書き込みを見たときは笑ってしまったが、休日ではなくホリデイと考えると、軽快にスポーツをしたり散策をしたりするようなことも思えたりするのが面白い。

彼のトランペットの曲といえば**A Trumpeter's Lullaby(トランペット吹きの子守歌)**もとても有名な曲で、絶対に誰でも一度はどこかで聞いたことのある曲のはずだ。そういう曲ばかりのルロイアンダーソン氏の楽曲だが、そのほかにも、Belle Of The Ball(舞踏会の美女)The Waltzing Cat(ワルツィング・キャット)Plink, Plank, Plunk!(プリンク・プランク・プルンク)など多すぎる。もちろんそれらすべてが素晴らしく、また好きな曲でいつでも流れているようなものだし、例に書いたもの以外にも同様の曲も多い、その中でもわたしの一番好きなもののひとつがこの曲だ。

この曲は題名の通り、タイプライターを使った忙しい楽曲で、楽しく軽快にタイピングが行われている様子を表している曲だと思う。余談だが私の家には父親の所有していたタイプライターがあったということもあり、自分が使ってみたりすれば、その軽快な音がとても心地よかった。他の記事に書いたクリック感と音がするスイッチのキーボードを好む原因になったのかもしれない。だからこそこの曲が一番印象深く感じるのかもしれない。

このリンクは最初に録音された音源と思われ、タイプライターのキャリリッジリターンを模した音がドラムのスネアかティンパニーのような打楽器にブラシを使っているような音で、後に、かどうかは分からないが、私が聞いた多くの音源では南米音楽に使われるギロを使ってもっと明確な音を出していた。そういう違いを感じたが、太鼓でブラシを使った演奏も、はっきりとしたキャリッジリターンという感じではないが、落ち着いていてとてもいい。タイプライターで行末に鳴るベルの音や、タイプライター自体の打鍵音、そしてキャリッジリターンの音、それらが管弦楽との絶妙なコラボレーションの上に成り立っている素晴らしさを感じる。

彼にはそういう目先の違った素晴らしい音楽が他にも存在している。そしてそれら含め他の曲にも有名なものや好きな曲も多い。それらの曲を上記のように羅列しようと思ったが、それもキリがない。そんなことを考えていると、その中でもやはりこの曲のように遊び心を完成させているような曲が私はやはり好みなのだと思った。



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