街の選曲家#ZZZ111
私の家には父親の豪華な家具調のステレオシステムがあった、一時はやった4chオーディオでCD-4というシステムだった。子供の頃は自分でもそれでレコードを聞いていて、私のものではなかったが、いくらか4chのレコードメディアもあった。それ以前はビクターの小さなレコードプレイヤーを使っていて、幼児のころドーナツ盤を聞いたりしていた。カセットで録音し始めたのはそれとは別にラジカセを買ってから。最初に父親がモノラルの頑丈なラジカセを買った。マイクが脱着可能なワイヤレスマイクというギミックが好きだったのを憶えている。それを母親は後々までラジオとして使っていたが、当時私はアレコレマイク録音した以外は使わずで、例えばエアチェックやテープの編集などは、自分のオーディオを買ってからやるようになった。私はクラスAのプリメインアンプを買い、今のではなく初期の頃のテクニクスのダイレクトドライブのレコードプレイヤーを買い、カセットデッキを買ったりしていた。チューナーはどんなのだったか忘れたし、カセットデッキはいくらか買い替えた。実際はレコードプレイヤーも同じDDの機種をLPジャケットサイズのものと、普通のデッキサイズのものを買っていて、どちらかを後に買い足したということになる。今思うと壊れたわけでもないのに贅沢なものだ。そしてそこからレコードからのカセットテープへの編集が始まった。特に気に入った曲を編集したものはメタルテープに録音したりして楽しんでいた。別にノーマルでもクロームでもいいんだけど、やはり少しずつ音質がよかった。
私にとって友達は多くなく、趣味もマイコンやGUNや音楽(オーディオや楽器)と偏っていた部分もあるし、基本的に頭がおかしいと思われるところもある。しかしそれでもいくらかの同じ趣味を共有する友や、寛容な友はいた。それらの友と音楽の情報交換もしていたが、内面的に深くなるのはやはりアーティストやジャンルなど趣味のベクトルが近い友だ。私は伝道師になるつもはなかったが、好きなアーティストの、自分がコレと思った曲とかを編集し友達と共有していたりした。中にはエアチェックしたものも入れたりもしたが、FMだとしても音質に不満もあり物足りなかった。私はいい時代に生まれたと思う、音楽やオーディオだけじゃなく、さまざまなものの過渡を経験したし、世の中が贅沢だった。いや、贅沢いうよりも、もちろん幅はあるが総中流のような時代だった。ふとそんなことを思い出した。
ハイスピード無鉄砲 - カラスは真っ白
この曲も当時制限のあるサブスクで新規開拓したものだ。まあ開拓とかそんな大げさなものでもないが、それまではまったく知らないバンドの一つをリコメンドによって聞き始めたものだった。このまったく知らないというのが自分にとっては興味深く、いつもならそのバンドを深く知らなくても曲は聞いたことくらいはあったり、プロデューサーやサポートメンバーに知った人がいたりということはあった。でもリコメンドによってまったく知らないバンドを聞くようになり、その一つがカラスは真っ白だった。同様のバンドでは以前ここで触れたドラマチックアラスカやポルカドットスティングレイもそうだ。後に触れるモーモールルギャバンとかもある。
話は脱線したがこの曲に出会ってカラスは真っ白に興味を持った。ポップロックでファンク風、ボーカルはふわふわだ。それが妙に心地よくて聞き始めた。またこの曲では随所に現れるピアノの旋律がスッキリと頭を駆け抜ける。聞いてみてどういうバンドなのか興味が出てきたが、詳しく調べないのが私のクオリティ。日々に相殺されていて4ピースバンドというくらいしか知ろうとしなかった。演奏風景や容姿を見たのも今回書くにあたって上に貼ったビデオを見たからだ。ビデオを見て久しぶりに聞き、演奏からは衝動が感じられ、ボーカルのヤギヌマカナさんはギターも弾くオーソドックスなスタイルでもあった。そしてベースやギターはそつなくプレイしている感じもあるけど、衝動的に弾けてしまうように聞こえるのもいい。そしてドラムの躍動感にはわくわくしてしまう。ガッチリしていて骨太に感じ、衝動を支えている。そしてメンバーか、そうでないのかは分からないが、ピアノがとてもいい。鍵盤のいないこのメンバーだと、アレンジのパワーなのか、このピアノは効いている。これがメンバーによるシーケンスだとすると、いや、だとしても素晴らしい。サポートメンバーでも構わないし、それはそれで素晴らしいとも思うが、このクオリティのバンドなら自分たちでできそうだと思った。この曲が入っているアルバムのすぺくたくるごっこから順に聞いていった思い出だ。だが、私へのインプリンティングとしては、やはりそのアルバムのこの曲ということになる。ポップロックとボーカルはふわふわ感があり、それにファンク的な泥臭いリズムが融合している、そんな風に感じて心地よいのだ。
Each Year - Ra Ra Riot
Ra Ra Riotを最初に聞いたのはリコメンド機能を使い始めた頃に、そのリコメンドの海の中からジャケ買いというか、ジャケ聞きという衝動的な理由となる。何かのアルバムか楽曲の似たような曲のページ、まあそれがリコメンド機能なんだけど、それを見たらジャケットがつらつらと並んでいて、その中に興味深いジャケットがあった。それで聞いてみたという流れだ。そのジャケットは一見して錦鯉に見える写真であるような、一瞬鉱物写真のようなそんなジャケットだった。そのEPを聞いてみるととてもいいロックでポップさもあり、メロディーがすがすがしいようなものだった。そしてビートルズのエリナーリグビーって感じでもないが、バロックポップの雰囲気が漂っている。そういうのが耳にとまり、脳に入りこんで滲みわたった。沁みたのではなく、滲みこんだというような、そんな感じだった。
そのEPに入っているこのEach Yearは一曲目で、このEPの時のRa Ra Riotそのものを表す曲のひとつだと思っている。爽やかでポップなメロディはどこまでも続く、多分歌詞もそういう感じだろうと思う。だってEach Yearだから、曲も含めて淡々としたさわやかさを放っているに違いない、
With the fall each year
With the fall each year
Each year
なんて、素晴らしいじゃないか。何があるわけでもないのに、毎年秋になればなにかがありそうだ。それに結構コミカルで、深い詞なのかもしれないな、とも思う。その世界観が好きなんだ。
曲は生ギターの響きやバイオリンの音はバロックポップ的なものというよりも、よりアコースティックなものを感じさせる。だが、それ一辺倒ではなく、電気ギターもベースもドラムもしっかりしていて、絶妙なバランスがいい。控えめなピアノっぽいキーボードもなかなかよく、それらを含めてアコースティック的であるし、それがこの歌詞や全体の雰囲気にもあっていると思う。ボーカルの歌い方や声もそれを強調しているわけではないけど淡々としていて、その中にパッションがあるような感じ。そして音は厚く、感じるのは落ち着きや日々の積み重ね、歌詞は言語的な問題で、正確には何を言っているのかは分からない、しかし曲の感じや、それが表す世界からはどうしても、落ち着きや自然の温かみを感じてしまう。そして冬の寒さも感じ、その中にやはり温かみを感じるのだ。
The Reflex - Duran Duran
一定以上の年齢なら誰でも知っていると思われるDuran DuranのThe Reflex、この曲は当時TVCMでも流れていた曲で、Duran Duranというバンドの有名曲でもある。そのDuran Duranというバンド自体は今でも人気があり、かつては一時代を築いたバンドでもあった。ニューウェイブの中心的なバンドのひとつでもあったし、ロックやこの曲のようなダンスミュージック的なのもあった。当時のTVCMとして流れていたと書いたが、日本で彼ら自身が出演していたTVCMもあったり、ビジュアル等も含めて存在感は独特のものがあった。ニューウェイブ全体がそうだったが、ファッションやミュージックビデオなどのビジュアルも含めカルチャーの一部であったし、影響力があったのだ。私も日本のニューウェイブバンドを中心によく聞いているし好きだが、アメリカやヨーロッパのニューウェイブバンドもよく聞いた。Duran Duranはヨーロッパのバンドだが、ニューウェイブでもあり、私の敬愛する高橋幸宏さんのアルバムタイトルにもあるニューロマンティックのムーブメントにおいて、重要な位置を占めるバンドでもあった。
この曲をプレイリストに入れたのは当時サブスクでDuran Duranを発見して聞きたくなったからで、ただのノスタルジーといえばそうだった。このThe Reflexはまごうことのないシンセポップであり、ダンスミュージックであり、パワフルな曲だ。ボーカルやベースも印象的だが、やっぱりシンセの音が耳に残り、ギターもコーラスもまた同様。パワーがあり、曲としてまとまった印象も受けるが、実際は混沌をうまくまとめているようにも感じる。それは歌詞がパッチワーク的なもの、いろいろなものをアレコレと持ってきて、キメラ的に合体し作り上げた歌詞で、意味不明というように、その流れは曲も通じていると思う。私が思うに歌詞は意味不明ではなく、まったく関係のないさまざまな情景をThe Reflexというサビの部分でつなげている。それは無意味ではなく、無意味の中の意味、AIが名付ければマッドマッシュアップとかなんとか、そういう抽象的な事柄だと思う。それが曲にも表れていて、それをダンスミュージックでまとめていると思うのだ。それはイングランドっぽいと感じてしまうのは私だけなのかもしれない。しかし、マザーグースの中でもイングランドやロンドン由来のものとか、そういうものを思い起こすような気質を感じる。私はそういうことに対して造詣も深くないし、なにも知らないからそういう印象なのだろうが、どうしてもそんなバックボーンを感じてしまう。聞けば分かるというはっきりした曲でもあるが、その無意味の深さも好きなのだ。
サイケな恋人 - モーモールルギャバン
このバンドに出会えたことは、そのサブスクに加入して一番の収穫だったと言ってもいい。どこかのなにかの拍子に出会い、聞き、それを続けて、完全に好きになった。当時出会ったアルバムは野口、久津川で爆死というアルバムで、何度も繰り返し味わい消費した。気に入ればプレイリストにも入れるでしょう、という流れでプレイリストに彼らの曲を入れ始めたのは必然。私のプレイリストには不文律のようなものがあり、一つのプレイリストには同じアーティストを入れないというものがある、それを破ったのもモーモーとYMOのそれぞれ一度だけだった。それにふと思ったのは、どちらもキーボード、ベース、ドラムのスリーピースバンドで、ドラムスがボーカルの殆どを取っている。そしてYMOといえば私を成すものの根本で、そういう相似をただ考え、ほくそ笑み、喜んでいた。そう思うと私自身が彼らの歌詞の中の人間のようで、そういう歪んだ親近感もあったのかもしれない。
この曲は野口、久津川で爆死の最後の曲で、ライブっぽいアレンジでキーボードのユコさんが歌っている。歌詞も考えてみれば彼女が書いたように思うし、ボーカルを取っているということで曲も彼女だと推察している。モーモールルギャバンはどの曲もそうだが、ベースがとてもしっかりしていて存在感がすごい。この曲ではベースがメインといってもいいようでもあるし、スリーピースバンドの音の少なさを感じさせないのはこのベースの響きがあるからではないかと思っている。そしてドラムが個性的で変則的というか予想ができないような感じが大好きだ。ある意味もったいぶったような、細かいリズムが入っているような、おかずも目立つのだが、おかずの数は決して多いとは思わず、だが特殊であるとは思え、それは決して悪くない。ドラムのゲイリーさんは元々はドラマーではなかったと知ったが、こういう感触はそういうのが理由なのかもと思った。そして作詞作曲者と思えるユコさんのキーボードはエレピを中心とした曲のディテールを作っているもので、感情を表しているように聞こえる。エレピは基本的に通して聞こえるというか、最後の最後にライブっぽいアレンジの、モーモールルギャバンにはよくあるディストーションをかけたようなシンセサウンドになるまで続く。どちらもモーモーの音だと感じ、どちらも素晴らしい。淡々と語るようなエレピの音と、ライブ感を盛り上げる電気ギター風のディストーションの効いたシンセサウンド、それらも好きになった理由のひとつだ。歌詞も大好きなんだ。パンティも、サ ヨ ナ ラ コ イ ビ ト!!もね。
ここで悩んだのはモーモールルギャバンの曲でなにを入れたいのか、何の曲について書きたかったのかということだ。私が最初に感じたインパクトの野口、久津川で爆死では、ユキちゃんやコンタクト等、選ぶには悩む曲ばかりだ。特に悩んだのが上記の曲ということで、どれを選んでもおかしくないし、この曲を選んだのは運とも偶然ともいえるものだ。サブスクでまったく聞いたことのない状態から出会い、知り、物理メディアまで手に入れて聞いた初めてのバンド、アルバム、曲だ。私がプレイリストや口頭で勧めて彼らのライブに行った人間もいる。私は体の問題であちこちは行けないので無理だが、そういう出会いがあったこと、それがうれしい。そしてそれはこのモーモールルギャバンというバンドのパワーだとも思っている。大好きなんだ。
今回思ったのはサブスクのリコメンドによって、まったく聞いたこともない曲や、自分の聞いていたものとの関連性もないものでも、初めて知り好きになったものも多いのだという事実だ。これは私にとっていいことで、やっぱり好みを評価するシステムが優秀でもあるのだろう。もしくは数を打てば当たるのだろうか。私はbandcampも利用していて、ニュースのような感覚で毎日Bandcamp Dailyも聞いている。しかし、その中で深く好きになる曲やアーティストに出会える確率はリコメンドよりも少ないと思う。やはり思うのはリコメンドのシステムに対しての優秀さだ。そしてそれは、ありがとう機械、だろう。