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ロックンロール

シーナ&ザ・ロケッツの鮎川誠さんが亡くなられた。その前には高橋幸宏さんが亡くなられたんだけど、私はその二人の関係で彼らの音楽に触れてきた。私はYMO直撃世代で、YMOチルドレンとは言わないまでもずっと、今までも、今でも変わらずYMOは私の底辺に存在するものだ。そして鮎川誠さんのことを知ったのもYMO絡みだった。子供ながらにYMOを聞いていた頃、シーナ&ザ・ロケッツのアルバムの真空パックが発売された。その少し前にYMOのアルバムのSOLID STATE SURVIVORが発売されていて、その中のロック色の強い曲のギターが鮎川誠さんだった。そしてその真空パックは細野さんのプロデュースで、幸宏さんや教授も参加していた。それに興味があり買ったのだ。私が期待していた部分と、期待していなかった部分があったのだが、期待していなかった部分は今までに体験したことのない痺れたロックの部分で、戸惑いながらもガンガン伝わってきて、分からないことを分かりたいような気持で夜毎寝るときにはずっと聞いていた。子供だったしロックで聞いていたのはビートルズ程度だった、その私の狭い世界にロック、ロック、ロックがやってきたのだ、そしてファンクもブルースも。そういう興味の広がりで聞くアーティストは広がってゆくが、特に幼い頃ということで影響を受けたように思う。すべてが新鮮だったのだ。後に幸宏さんが鮎川誠さんをYMOに紹介したということを聞き、そのつながりの起源にも心が躍った。今回はその真空パックを中心に鮎川誠さんの私の思い出、曲のことを書きたいと思う。


OMAEGA HOSHII (ONE MORE TIME)

シーナ&ザ・ロケッツの真空パックは、先ずYMOの編曲でテクノ風のアレンジのBATMAN THEMEで始まって、シーナさんの歌が前面に出るポップロックのYOU MAY DREAM、ブルースの香りもするSENTIMENTAL FOOLがありそこまでの流れは平穏だった。そしてその次の曲がこのOMAEGA HOSHIIだった。最初聞いた時はハードでパンクロック風の曲調に素直に度肝を抜かれた。子供だったということもあるが、前述のとおりロックはビートルズ程度しか聞いてなかったからだ。この曲はインパクトがあり、パンクロックのどうしようもないような退廃的な雰囲気も感じた。今思うとまさにパンクロックそのものじゃないか。鮎川誠さんのギターもベースもドラムもシーナさんの歌も素晴らしい。裏打ちのドラムと最後のリフレインの頭の少し変則な感じが不思議でもあった。その頃はただ目覚めただけ、ただ聞いていただけだが、この曲によってイギー・ポップを初めて知り、 The Stoogesを初めて知った。また、菊さん(柴山俊之さん)の訳詞もただの対訳というだけではなく刺激的だ。同様に真空パックに入っている曲でI GOT YOU,I FEEL GOODではファンクとJBことジェームス・ブラウンを知り、YOU REALLY GOT MEではまた別のパンクロックを知る。特にJBとの出会いも今思えば必然的だったような気がしてしまう。そうやってシーナ&ザ・ロケッツで私のロックの音楽の世界は広がった。

I GOT YOU,I FEEL GOOD


SENTIMENTAL FOOL

私には少しだけブルースの香りがするとてもカッコいいロック。曲がどうアレンジがどうという感じよりも、そこに鮎川さんのギターがあり、シーナさんの歌があり、バンドが存在し、この曲がある。それだけでいいし、それが重要ということを知る。そしてこの曲には後にSONHOUSEを知る決定的な理由があった、菊さんの歌詞である。鮎川さんがいたバンドなのでいつかはたどり着いたとは思うが、このSENTIMENTAL FOOLのシーナさんの歌、鮎川さんの曲、ギターでこの歌詞がガンガン伝わってきた。特に間奏のギターは大好きにならずにはいられなかった、メリハリというか曲は情景を表せる、それが心情であっても、そういう曲は昔からあるが誰でもそれをできるわけじゃない、歌詞に引っ張られ曲に引っ張られ、歌、演奏に引っ張られ考えていた。いや、最初の頃はそんなに深く考えてなかった、だがよく分からないが思春期らしき前後の頃には歌詞には確実に引き込まれていった。音楽の世界も広がったのだが、それと同時に歌詞への頓着も深まったのだと思う。真空パックには上記の訳詞や他の曲も含めて菊さんやSONHOUSEの面影を感じる。もちろんバンド自体が継承しているというか鮎川さんがその一人なので当たり前なのだが、これが博多のロックかというような一つの世界観がある。


STIFF LIPS

この曲は作詞が初期のYMOでたくさん歌詞を書いていたクリスモスデルで曲が鮎川さん、そしてアレンジはとてもニューウェイヴ的で鮎川さんのボーカルがクール。コーラスのシーナさんのカッコよさもいい。これを聞くと鮎川さんのボーカルもまたカッコいいと思う。この曲だけではなく様々な曲をきいてそう思う。ギターも軽妙で、まるでイギリスからやってきたニューウェイヴバンドの楽曲のようだった。シーナ&ザ・ロケッツに感じるのは無国籍なのだ。同様にLAZY CRAZY BLUESもニューウェイヴ色の濃い作品で、この曲とは違い少し重い感じでギターもまた違う表情がある。そういう様々なものを体験できたのを思うと今考えても嬉しいことだった。これらのニューウェイヴ的なものはプロデューサーの細野さんの細かさやアレンジでかなと思い、両曲ともとても完成度が高く気に入っている。またLAZY CRAZY BLUESも菊さんの歌詞で悲しみや苦しみが伝わってくるような気がした。それらが滲んでいるような情景。そういう歌詞と歌うシーナさんにも引き込まれた。

LAZY CRAZY BLUES


レモンティー

そしてもう一つ、シーナ&ザ・ロケッツ、鮎川さんのギターというとこの曲を思い出す。この曲はやっぱりYMOつながりのスネークマン・ショーというアルバムに入っていて、様々なジャンルの様々な曲がちりばめられていた。その中でもロックでパンクでとても輝いていたのだ。スネークマン・ショーということでシーナ&ザ・ロケッツの音源的にはあまりメジャーなものではないと感じるが、当時はライブでは必ずやっていたように思われる。そしてこの曲はSONHOUSE時代の有頂天に入っている曲で、菊さんの歌詞がきわどい。曲に元ネタがあるとか言われているがそんなのは関係なくこのレモンティーがカッコイイのだ。そう、このギターを聞いていたいんだ。すごくロック。とてもロック。鮎川さんはロックンロールそのものなんだと改めて思う。

SONHOUSE盤


CATFISH

今回は鮎川さんについてシーナ&ザ・ロケッツの真空パック中心に書いているが、その後もずっとアルバムは聞いていた。真空パック以降もそれなりにメディアに取り上げられていて、そうしていると当時は雑誌とかだったと思うが、鮎川誠さんのソロアルバムが出るという話を知った。ロンドンレコーディングのアルバムということだった。既に音源の主要販売がCDになりつつあった頃と記憶しているが、ビニール盤の12インチシングルが出るというので予約したかは憶えていないが発売日に買った。聞く限りでは一発録りのように思うのは、最初に合わせるための声が入っていたからだ。セッションの感じや空気感は他のアルバムとかと違って思え、それがイギリスだからかこのセッションだからかは分からない、だが個の楽器のそれぞれの音、そのまとまりの先に空気が見えるように感じた。そして乾いたギターもカッコよくて何度も聞いていた。この曲もSONHOUSEの有頂天に収録されているが、鮎川さんのCATFISHを聞くとやっぱり鮎川さんのボーカルもいいなと思ってしまう。そしてこの曲は鮎川誠さんの作詞、鮎川さんの歌詞の曲は有頂天に少なからずあるがCATFISHは特に好きだ。

なまずの唄


私が聞いてきたのは少しだけだろう、その中でも鮎川誠さんのことを思うことはある。現在存在する場所などを考えると様々な面で意識するようなものに出くわした。随分前になるがまだ私がテレビを見ていた頃、ローカルのテレビに鮎川誠さんとシーナさんがご夫婦で出ていた、そのしあわせなお二人を見ているとこっちまでほっとしてしまうような気持ちになる。それに鮎川さんは物腰はやわらかく久留米弁からか多少難解な言葉もあるが、総じてそれはやわらかくそのやわらかさが鮎川誠さん自身を表している。ステージや音源であれだけのギターのパフォーマンスもある人で、話されていたことや、書かれていたことなど他のことでも芯がある人だと思う。その両面を持っている魅力もある。残念だがシーナさんは先に旅立たれていた。それでもずっと志を継ぎ、多分共に続けていて、それを見ていた。そして今鮎川誠さんも旅立たれた。ああ、これはシーナさんと一緒にいるな、と、それだけは思える。それにこの世界では音楽も映像も書物も残っている。CDやレコードでハードなものから繊細なギターはもちろん、例えばYouTubeではいくらでも鮎川さんの優しい声でロック、パンク、ブルース、街や物、様々なものについてのコンテンツもある。鮎川さんが残したものだ。それらはいつまでも聞き続けられるだろう。普遍的なこと。星になるとはそういうことなんだろう。これからも聞き続けるよ。ありがとう。

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