街の選曲家#ZZZ1ZZ
曲目のことを考えているときに、ふと、ワールドスタンダードの鈴木惣一朗さんが以前ノンスタンダードレーベルのインタビューで、ミックステープって想いだけで言ってみれば雑でしょ、みたいなことを言っていたのを思い出した。確かにそうだ、いつも淡々と選曲しているつもりではいるが、昔のカセットテープの時代の編集では、絶対的なテープ長があり、時間が決まっている。そしてできるだけその時間内ぎりぎりに成立させたい。テープにスマートに収めたい、と、そういう思いが強くあった。だから時間優先になりがちで、選曲に妥協という雑さもあったと思う。編集が楽になり、時間が自由になった今、一応は流れというか起承転結というか、ジャンルをまたいでいても、そこにこそ意味があるようなふりをしている。しかし実際は行き当たりばったりみたいなところも多い。そんなことをつらつらと思った。
Candyland - Tobu
くすぐったいような歪んだような音色のメロディから始まるこの曲は、扉の入り口からゆっくりと入るような、しかし徐々に、いや思ったよりも目の前のそこに高揚があふれる曲だ。聞いていると繰り返す静と動、リズムに体の中がレベルメーターになるような、心拍に呼応するような、脳がシンクロしこんぺいとうのように尖り収縮するような、そんなハウスミュージック。電子音楽でありながらアコースティックな雰囲気や自然の情景が見える。この曲が入っているミニアルバムというかEPでTobuさんを知った。どの曲も美しく、実際にはない情景や世界が見えるようで、すべてにおいてメロディアスで幸福だった。そしてこの曲をプレイリストに入れた。それだけ安定して安心できるような曲、そうだ、走っているわけではないのに吹き抜けるようなスピードまでも感じてしまう。Tobuさんの楽曲は当時そのサブスクには少なかったのだけど、後に主に活動しているのがYouTubeやSoundcloudだと知り、その場所では彼の活動を直接受け取ることができることを知る。サブスクもそうだけど、この時代の自分の視野を広げられたことを嬉しく思うし、この偶然を幸運だと思いたい。実際はそれは必然だったというならいいのだけれど。
Music Video Orchestra - Omodaka
以前Omodakaのおてもやんついて書いたこともある、それも含めOmodakaが大好きだ。寺田創一さんの活動、Far East Recordingでのアルバム、ファンタビジョンを始めとしたゲーム音楽、Omodaka名義でファミコンカセットとしてリリースされたChipTuneアルバムの8BIT MUSIC POWERへの参加、いろいろな側面がある。私は寺田創一さんの一人プロジェクトと言われているOmodakaを聞き好きになり、彼のそれまでの仕事を知った経緯もあるが、Omodakaに感じた魅力は民謡歌手のお金沢明子さんの存在も大きい。子供の頃に大瀧詠一さんのプロデュースでリリースされたイエロー・サブマリン音頭には度肝を抜かれた。ちょうどその少し前に友達がラジカセを買ってもらいビートルズを聞きはじめたというのもあるけど、少しだけ音楽の複雑な世界の中に入り込みつつある時期に大瀧詠一さんを知り、その仕事に感心したのもある。そしてそれまで民謡歌手という存在を知らず、演歌歌手とは違う民謡独特の素朴でかつ芯のあるような、そしてかわいらしい金沢明子さんの歌に驚いた。私の住んでいた地域では今はないが、当時盆踊りがあったのも民謡の歌唱がすっと入り込む余地があった理由でもあるかもしれない。Omodakaの曲には、おてもやんがマンボだったり様々なアレンジがあるが、この曲はファンク、とてもファンキーなサウンドが耳から入り体が動き出してしまう。そして金沢明子さんは歌ではなく声だがやはり素晴らしい。Omodakaのアルバムに多数収録されている民謡の様々なアレンジも好きだが、この曲のようなFar East Recording時代の寺田創一さんが現在に進化しているように感じたい、そんな曲も大好きだ。
MASTERSオブお家芸 feat. 宇多丸 (RHYMESTER) - サイプレス上野とロベルト吉野,宇多丸
サイプレス上野とロベルト吉野を知ったのは、実は以前に多分ニコニコ動画でimoutoidさんの動画を見てから。動画といっても彼の動画ではなく、何かしらの動画にimoutoidさんの曲が使われていて感激し、クレジットに名前があったので検索したらimoutoidさんのブログに到達した。そこに公開されていた曲の中にサイプレス上野とロベルト吉野のBay Dreamという曲をtofubeatsさんがリミックスし、さらにimoutoidさんがエディットしたものがあった。分かりにくいけどimoutidさんのブログにあった言葉を読んで思ったのは、後に知ったが彼はtofubeatsさんとも友達だったし、そのtofubeatsさんのリミックスにラップがないというのに目をつけ、ラップの言葉を組み合わせごとに切り、自然な発音になるようにエディットしたのだろう。最初から全然話が違うが、そういことでimoutoidさんを知り、tofubeatsさんを知り、サイプレス上野とロベルト吉野を知った。その記憶があり、サブスクに加入した時にヒップホップを検索する中で、検索結果のリコメンドにサイプレス上野とロベルト吉野を発見したという流れだ。この曲は古くからのヒップホップのスターのRHYMESTERの宇多丸さんをフィーチャリングした曲で、私にとってはとてもカッコいいリリックが特徴だ。狭い世界の中のパラダイス、とても愛すべき世界、サイプレス上野さんとロベルト吉野さんのそれぞれのよさが出ていてロックなトラックもすごくいい。この文章自体なんだかわけの分からない感じになってしまったけど、ある出会い以来サイプレス上野とロベルト吉野を聞くようになり、プレイリストに入れた曲の一つだという話。サイプレス上野さんのリリックの言葉の選び方には私の感覚とは違うところもあるし、すべてがハマるわけでもない。しかし、この曲以外にも好きな曲はたくさんあるし、横浜、酒、そういう明確に愛すべきものがあるところもいいなって思っている。
Space Cowboy - Jamiroquai
Jamiroquaiが好きだ。誰もが知っているその音楽、彼らの曲はファンクでポップでソウルで洒落たアシッドジャズだ。最初知ったのはWhen You Gonna LearnやVirtual Insanityだった。やはりインパクトはVirtual Insanityのビデオクリップでもある。ジェイ・ケイさんの素晴らしいダンスのパフォーマンスが目を引くクリップだった。そのインパクトも曲のインパクトがあるからだろうとも思うが、それは誰でも分かること。しかもVirtual Insanityのビデオクリップも実際はこのSpace Cowboyが元ネタのように感じる。服装やセットの雰囲気は統一されていないが、鋼鉄を模した柱のある無機質なセットの中でジェイ・ケイさんのダンス、それはまさに元ネタと言えると思う。しかも曲の雰囲気とシーンがシンクロしているような部分、トリップしたような部分が印象的で、この曲を物語っている。アルバム名はスペース・カウボーイの逆襲だったが、実際の英語やこのクリップを見るとスターウォーズのように、スペース・カウボーイの帰還だろうと思う。ジャミロクワイの曲は静かでしっとりしてて滲みこんでくるキーボード、とてもファンキーなベースを思い浮かべてしまう。そしてジェイ・ケイさんの歌も特徴があって、しかもその歌は歌手という意味ではなく曲全体を表現する表現者のような世界、そういうものを感じる。そしてそれらすべてがJamiroquaiという存在そのものと感じる。音楽のしあわせは何かだけではないすべてだと思わずにはいられない。
これらの曲の一部は音楽サブスクリプションサービスに入って知ったものだ。プレイリストとなるともちろんね。制限はあったが、そういうサービスに入り普段聞いていたものをあらためて聞き、聞かなかったものを好きになり、聞くようにもなった。歌詞の問題とかで日本人の日本語の曲も多いが、今回のTobuさんとの邂逅のようなものもある。偶然これを目にした人で同じように、ふとした邂逅があればいい。そう思っている。