星を見ない
その夜、知らない名前の白い花が何てことはない顔で、私を見下ろしていた。あなたは夜道を歩いていて、そして中庸な速さで、あなた自身についての考えを巡らしている。
陰鬱なアスファルトをスキップをする。つま先の向こう側には、黄色いレンガの道が広がっているんではないかと思うような愉しみがあった。でも、踵の向こう側には柔らかですこし痛みのある芝生が伸びたり縮んだりしているのだった。
ふと振り返ると、小さな犬、または猫のようなものがこちらを見つめた。鳴いたり、すこし噛んだりもしたし、だからと言って振り解いたり、憎むことはできなかった。その限りなくアメリカン・ショートヘアーのような、ミニチュア・シュナウザーのような形をしたそれに、母のような眼差しを向けるあなたのことも。私はただ夜風に頬を寄せるほかなく、それに軽く口付けてやっては、ちっとも温まらない自分の心臓をさすってやるということを繰り返していたのだった。
そういうように歩いても、さして何かが変わることもなく、夜は更ける。ネオンが眠っても、ちびた煙草から灰が落ちても、見上げた空の月が曇って、涙が溢れても、それでも夜は更けるのだ。