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olsen_olsen
無題
洗い立てのデニムから浮腫んだ足首と愉快な爪先。淀んだ朝、雨上がりの夕暮れ、頬への口付け、滲んだ睫毛。
わたしは歩く。あなたに見送られた場所から、あたたかいバスタブから、2日目のスープの鍋から、さみしい轍から離れてゆく。
通りは明るい。信号機は暖かな色をして、横断歩道を照らす。夜のガソリンスタンド、瓶の中にはやさしさ、私を愛撫するのは蛾のいるショットバー、湿気たパーラメント・ライト。でもそれらは、私を歓迎しない。酷いにおいのするペトリコール、点かなかったかなしいマッチ、まとわりつく煙、空を見つめる鳩、肩に触れる髪は冷たい。これはとある日のご機嫌なワンピース、脱げば水色。だからわたしはそのファスナーを下ろさず、溶けたマスカラを拭わない。
スロー・モーニング。あなたの脱ぎ散らかしたご機嫌なワンピース。踵は靴擦れ、胸は霜焼け。窓際の灰皿は最低なにおいで私を責め立てる。あなたは眠る。ペイズリー柄のベッド・カバー。腫れた目と痕の残る頬っぺたに口付けられたかったけど、見えるのは背中ばかり、まさぐられるのは首筋と胸元ばかり。あなたの愛はそれを教える:珈琲とトーストなしの朝、あなたのくれた花が枯れるまでの夜。あなたはまだ眠っている。私は意気地がない:あなたを置いて歩き出すことができない、マッチの火がこわい、ピンクのチューリップばかり眺めている。
足は依然として浮腫み、バスタブの中は冷たくなった。朝はかなしい。陽射しが明るくて、陽気な若者がスタンドでコーヒーやらレモネードを買う。散歩に出かけたくなる。そういう朝はかなしい。