青春時代 第2話
とりあえず、難しい演技指導とかはしなくて、簡単な発声練習をやらされた。
体育館の裏で先輩が大声で叫ぶので、それにしたがって続いて叫ぶのだ。
アメンボ赤いなアイウエオ
トテトテたったと飛び立った
などなど
当時はインターネットなども無い時代。なんでそう言うかは分からないけど、ひたすら覚えて言うしか無かった。
さて、いきなり時は過ぎ、演劇部の発表会の日がやって来た。
題目はサロメ。
主役のサロメを演じる部長の女性は演技派で有名で、発表会が県民会館で行われる事もあってか、色々な演劇関係者の方々が見に来られているらしい。
俺の役はサロメに恋をするが叶わず剣で自害してしまうと言うチョイ役。
登場直後に告白→フラれる→大声でセリフを言って自害→退場というもの。
こう書くと簡単に思えるけど、俺にとっては人生最大の難関。
とりあえずセリフは覚えた。
後はやるだけ。
と思ってたらもう本番スタート!
劇が始まり、順調に進んで行く。
舞台の袖で出番を待ってる俺は緊張でガクブル。
先輩が「大丈夫、大丈夫」って声をかけてくれたけど、すまねえ、聞こえてない。
そしていよいよ出番が来た!
覚悟を決めて勢いよく舞台に飛び出す俺!
告白して、サロメにフラれる!
さあここで叫んで自害すれば終わりだ!
というところで、頭の中が真っ白に。
舞台に立っている先輩が小声でセリフを教えてくれる。
あ、思い出した!
大声でセリフを叫ぶ!
「あ☆4○$%」
思いっきり噛んでしまって何を言っているか分からない事を叫んでしまった…。
一応直後に言い直したけど、タイミング的にはこれ以上ないくらい最悪。
で自害して退場。
オワタ。
俺の人生オワタ。
だから言ったじゃん。こういうのは苦手だって!
そこからどうやって部室まで帰ったのか記憶が無い。
この舞台が先輩達にとって最後の舞台で、部活を卒業する舞台だったらしい。
部室で打ち上げが始まった。
みんながワイワイ騒いでいる中、1人ブラッホールの最深部に落ち込んでる俺。
もう、絶対にやらない。
もう無理無理。
そしたら部長が大きな声で叫んだ。
「はーい、じゃあ恒例のアレをやりたいと思いまーす」
みんなが拍手して盛り上がってる。
部長が一冊の台本を取り出した。
「ジャジャーン」
部室全体に歓声が飛び交う。
さすがに何が起きるのか気になって見てたら、部長がニヤニヤしながらゆっくりと近づいて来た。
そして俺に向かってその本をスッと差し出した。
なんだかよく分からないまま、本を受け取って、「なんスカ?これ?」と聞いた。
「ハイ!と、言うわけで!次の部長はピコ君に決まりました!みんな拍手ー!!」
「え?!え!!」
と言う事で、見事(?)演劇部の部長に昇格しましたとさ。