青春時代 第14話(最終回)
それは俺が三年生になってしばらく経った頃だった。
後輩たちの世代の演劇の地区予選が行われる事になり、その司会進行役として、前回地域予選で優勝した高校の俺とヒロインの彼女に白羽の矢が立ったのだ。
彼女との接点がないとコミュ障スタンド効果発動で全く話せなくなる俺は、もちろん二つ返事でOK!
後は彼女が引き受けてくれるかどうかだが……。
どうやら引き受けてくれたらしい!
ヒャッッッッホゥゥゥウウウ!!
やった!!これでまた彼女と話せる!
もう天にも登る気持ちとはこの事を言うのだ。
後日、打ち合わせのために、久しぶり彼女と対面した。
「ひ、久しぶりだね」
「う、うん」
「びっくりだよね。いきなり司会なんて」
「私もびっくりした」
そう言うと彼女はまたいつもの笑顔を見せてくれた。
あぁ、ありがとう。もうオラは死んでもええよ。
そして軽く打ち合わせを済ましたら、当日に県民会館で待ち合わせする事になった。
いよいよやってきました。
彼女と話せる(おそらく人生最後の)楽しい日が!!
現実の厳しさは前回の打ち上げ解散事件で実感してる。
きっと告白は無理だろう。
だったらもう、精一杯、彼女を楽しませて、その至福の笑顔を心に焼き付けるのが俺に出来る唯一の事だ。
非常に志しが低いのは承知の上だ。
でもやってみせるぜ!!いざゆかん!!
彼女と合流して県民会館に入っていき、主催の方と挨拶を交わす。
そして台本をもらい、彼女と軽く読み合わせを行った。
大した量じゃないし、台本をチラチラ見ながらやっていいという事だし、楽勝だね!
と、言うわけで、気持ちが高ぶってる俺は、コミュ障とは思えないノリノリで司会を始めた。
各校の演技の間は、二人きりで舞台袖で待機。
一つの劇が大体40分くらい?だからもう、二人きりの天国ですよ!!
最初は黙って演技を見てたけど、色々と細かいところを突っ込み始める俺。
彼女がクスクスと笑った。
調子に乗って、雑談を交える。
彼女も乗ってきた。
小声でだけど、二人で、二人だけで、盛り上がった。
チラチラと彼女を見ると、彼女もあの笑顔でこっちを見る。
俺はその瞬間、瞬間を心に焼き付けていった。
余りにもそんな事に夢中になり過ぎて、司会の事を忘れそうになり、二人で慌てて飛び出して行った時もあった。
その後、舞台袖に戻ってから、二人で息を殺しながら大笑いした。
そんなこんなで、あっと言う間に全ての高校の上演が終了し、審査の時間がやってきた。
どの高校が何の賞をもらうかを決める会議が行われるのだ。
俺たちは、審査が終わるまで、会議室の前で待機する事になっていた。
そこでも、二人きりだ。
俺は小声で、彼女との雑談を楽しみ、そしてあの笑顔を心に焼き付け続けた。
すると突然、友達が遠くから俺を呼んできた。
「おーい、ピコー!ちょっとこっち来てくれー」
なんだよ、せっかく人生最後の彼女との会話を楽しんでたのに…。
と思ったが、頼まれたら断れない性格なので、彼女にちょっとゴメン、すぐ戻ってくるから!と言って、走って友達の所へ急いだ。
すると、知らない女の子が友達の隣に立っている。
友達がニヤニヤしながら、じゃあヨロシクと言って去って行った。
女の子がなんだか緊張気味に喋り出した。
「あの!シローさん(俺が演じた役の名前)ですよね!私、シローさんの大ファンなんです!あの…握手してもらってもいいですか?!」
「あ、そうなんですか。いいっすよ、俺でよければ。どうぞ」
そう言って握手した。
女の子はすごく喜んで去って行った。
まあ物好きな子がいるもんだなー。さて、急いで彼女の所へ帰らないと!
と、振り向いて帰ろうとしたら、遠くに見える彼女がなんだか横を向いている。
走って近寄って見ると、ほっぺを膨らませて、ツンとした表情だ。
あれ、なんか俺、悪いことでもしちゃった?
「なんかさ、友達が俺のファンだって女の子を連れて来てさ、握手して欲しいって言うから握手してあげたんだけど。なんだか喜んでたみたいだから、まあいい事したかなと思ってさ」
さっきあった事をまんま説明する俺。
ピクリとも反応しない彼女。
「いや、別に俺はなんとも思ってないけど、女の子は喜んでたから、まあいいやと思っただけで」
必死になんとかしようとする俺。
でも、そもそも、なんで彼女がそんな態度を取ってるのか、まるっきり分からない。
一体どうすりゃいいの?!
必死に話しかける俺。
もうしまいには何とか笑わそうと、変なギャグまで言い出す始末。
すると彼女が耐えきれなくなったのか、プッと吹き出してあの笑顔を見せた。
よかったぁぁぁ!!笑ってくれたぁぁぁ!!
そして再び、楽しい雑談に戻って、審査が終わるのを待った。これがホントのホントの最後の彼女との楽しい会話になった。
THE END
この後は、大学受験の事もあり、彼女とは会う事がありませんでした。違う大学へ行きましたし、俺はゲームを作るプロになる為に東京へと旅立ち、ゲーム一筋で生活したので、滅多に帰郷もせず、彼女がどこに住んでいるのかも分からないまま、結婚して子供もでき、高校卒業三十周年の同窓会に参加しました。
彼女はそこには居ませんでしたが、中学時代の友人から有益な情報を得ることが出来ました。何と、彼女の娘さんが、アイドルをやっているんだそうです。写真もあるとの事で見せてもらいましたが、あまりにもびっくりして倒れそうになりました。彼女にソックリなのです。そして笑った時の顔も当時のままでした。
追記。
今はアイドルが解散し、とあるバンドのボーカルとして活躍中です。
もちろん、密かに娘さんのことを応援してたりする俺はキモオタです。(笑)
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