青春時代 第11話
何だかんだで合宿も無事終わり、県大会に向けてまずは地区予選に出場する日がやってきた。
まあ、その間は、特に面白いエピソードは無かったんで、パス。
地区予選は、県民会館で行われる。
ここで勝ち抜いた学校が県大会に出場する権利を得られるのだ。
会場入りすると既に舞台でリハーサルをやっている学校があった。
ちょっと見てみると……。
ヤバい!うめーよ!
こんな学校たちと勝負するのかよ!
超ネガティヴな性格の俺は、早速ブラックホールの奥底に落ちそうになるが、隣にいる彼女を見つめて、何とか現実に引き戻された。
俺は舞台を真剣に凝視している彼女に向かって話しかけた。
「上手いよね」
「うん」
「俺たちも頑張らないとね」
「うん」
「県大会、みんなで一緒に行くから」
「うん」
彼女も本気だ。
だったらその願いを叶えてあげたい。
自分がどうこう言う気持ちよりもまず、好きな子の願いを叶えてあげたい気持ちの方が強かった。
本番まで残された時間は後わずか。
リハーサルを終わらせたら、後は全力を出し切って倒れるまで演技するしかない。
彼女のために。
そしてとうとう本番がやってきた。
もう、本番がどうだったかは正直覚えてない。
父が当時の様子を、まだ時代的に珍しかったビデオカメラで撮影してくれていた。
後で見返して見たが、自分を見ても、誰だ?コイツってくらい記憶が無かった。
さて、何とか無事に演技は終了。
舞台の終わりに、審査員の方々から一言ずつ、コメントが述べられる。
内容は細かくは覚えていないが、結構散々な辛口内容だったのは覚えている。
コメントを聞いて、もっとああしていれば、こうしていれば、と後悔ばかり感じていた。
こうして全校の演技も終わり、審査の発表を待つばかりとなった。
俺たちは会場に座って、結果発表をじっと待っていた。
もちろん俺はちゃっかり彼女のとなりの席をキープしていた。
彼女が「大丈夫かなー?」と心配そうにつぶやいているが、正直言って審査員の方々のコメントを聞いた後だと、大丈夫なんて言えない。
嘘や建前を言えない俺は、只々じっと黙って、待つのみだった。
結構待たされたのち、とうとう結果発表の時が来た。
ウチの高校はM高校。さて、結果は?
優勝高校の発表です!
優勝は…
M高校!
みんなが一斉に立ち上がって大喜び。
俺一人を除いて。
俺だけが微動だにせず、じっと座っている。
隣の彼女なんて、俺の手を握って、大はしゃぎしている。
でも俺は眉毛一つさえ動かさず、じっと座っていた。
以下、俺の心の声。
「やべーーー!彼女が俺の手を握って喜んでる!!!何より彼女の願いが叶って良かった!!本当に良かったよ!!あーーー!彼女の手の温もりがこんなにも心地よく感じたのは初めてかも知れない!!このまま時が止まってしまえばいいのに!!この時が永遠につづ」
ここで、みんなの騒ぎが収まり、彼女も俺から手を離して座ってしまった。
俺は一人だけ周囲とは真逆にショボーンとしていた。
こうして県大会に出場する事になった。
もうしばらくの間は彼女と一緒にいれそうだ。
さて解説 しよう。
なぜ俺はじっと座ったままで素直に喜ばなかったのか?
1. まず、辛口のコメントがあった事が一つ。改善すべき点が多いのに、なぜ優勝に?と疑問を抱いたから。その疑問の方が気になってしまい、そっちに集中したため、喜ぶのを忘れた。ASD、ADHDの特徴かな?
2. 厨二病だから。「ふ、このくらいの事、当然だ。俺様にかかればな。この程度で喜ぶのはまだ早いぜ」って感じで、素直に喜べないと言う、いわゆるバカ。