連載小説 | 蛍光女①
「ケイコさん、顔が光ってますよ」
「だって、私の名前は蛍子ですから」
今までに何度同じ質問をされて同じことを答えてきたことだろう?
物心がついた頃から、私の顔は、夜になると蛍のような青白い光を発するようになった。
幼稚園の頃、母が心配して私を医者につれていくことが何度もあった。
「うちの子の顔は、夜になると青白い光を放つんです」
「そうですか。いろいろ調べてみたのですが、原因は分かりませんでした。しかし、蛍子さんは極めて健康ですし、どこにも悪いところが見当たりません。とくに気にすることはないでしょう」
どこの病院で診てもらっても、医者の返事に大差はなかった。医者は病気を治すのが仕事だ。夜中に青白い光を放ったとしても、健康上なにも問題がなければ、治療の必要性を感じないのだろう。
「でも、先生。実害がなくても、我が子の顔が毎晩青白く光ると心配になるものですよ」
「でしょうね。お気持ちは分かりますが、なにも異常は見つからないのです」
母は食い下がった。
「本当に私の気持ちを御理解いただけたのでしょうか?やはり、夜に青白く顔が光ること自体が異常なのではないでしょうか?」
医者はこう答えた。
「それは『異常』ではなく、個体差というか、『個性』というものでしょうね」
「『異常』でも『個性』でもどちらでもいいのです。言葉遊びではなく、この子の顔が光る原因を知りたいのです」
「原因ですか?蛍子さんは『蛍の子』に生まれたからではないですか?」
私は幼心に「なんて適当なことを言う医者なのだろう?」と思ったものだ。しかし、母は「ハッ!」と、驚愕の表情を浮かべた。何か思い当たることがあったようだ。
…つづく
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