連載小説⑥漂着ちゃん
「エヴァさん、もう1つの有力な仮説というのはいったいなんでしょう?」
「はい、私たちはもしかしたら、未来からやって来たのかもしれません」
私は驚くと同時に半信半疑になった。さっき過去からやって来たと言ったばかりではないか?
「それじゃあ、さっきの説明と真逆ではありませんか?過去から来たと言ったり、未来から来たと言ったり。そもそも未来から来たという話はどこから出て来たのですか?」
「そうですね。そこから話さなければなりませんね。実は昨年の夏に、この山奥の古い地層から、明らかに人工物である乗り物が発見されたのです」
「乗り物?それがまさかタイムマシンとでも言うつもりですか?」
「はい、その『まさか』なのです。その乗り物は弥生時代頃の地層から発見されました。百人ほど乗ることができる、UFOのような…」
「弥生時代の地層から発見されたからといって、その時代のものとは限らないだろうに。他に何か証拠があるのですか?」
「その乗り物、便宜上『タイムマシン』と呼びますね、タイムマシンの中に残されていた鑑賞用植物とみられる植物を放射性炭素法で調べてみたのです。その結果は、おそらく弥生時代の頃の植物だと推定されました」
「エヴァ、それはどう解釈したら良いのだろう?」
「タイムマシン内部の表示を見たとそろ、Age 3500 を指し示していました。タイムマシンは西暦3500年からやって来たのでしょうね」
「ということは、エヴァ、君たちは西暦3500年から弥生時代に飛んでいった、ということかな?そして、弥生時代の『氷室』に封じ込められて、いま現在のこの世界に流れついた」
「おっしゃる通りです。今の仮説が本当ならば、私たちはあなたよりもずっと後の世界に生まれた。その意味では私たち『漂着ちゃん』は、あなた方の末裔です。しかし、私たちはタイムマシンに乗って、弥生時代に生きました。そしてここに漂着した。その意味では、あなた方の先祖ということになります」
「理屈はわかった。だが、ホントにタイムマシンなんだろうか?仮にその仮説が正しいとして、西暦3500年の人々が弥生時代に向かったのは何故なんだろう? 」
「さぁ、そこまではわかりません。私たち『漂着ちゃん』にとって、千年以上前の出来事ですし、ずっと眠っていたわけですから。正直なところ、記憶がないのです。ここに流れ着いた直後は、自らの言葉さえ忘れていたのですから」
「そうか。それもそうだな。君たち、エヴァたちのことを少しは理解しつつあるが…」
その時である。エヴァのもとから通信音が鳴った。
「回復?そう。それは良かった。蘇生が出来たんですね。今からそちらへ向かいます。彼は…発見した彼をつれて行くことは可能でしょうか?」
エヴァが微笑んだ。
「朗報ですよ。あなたが発見した『漂着ちゃん』の意識が戻ったようです。私はこれから彼女のもとへ向かいます。よろしければあなたも」
「いいんですか?」
「はい、許可がおりました」
「会えるんですね」
「一緒に行きましょう」
…つづく