短編 | ワイシャツ夫婦
「おい、このワイシャツは、ノリがききすぎててボタンが入らないぞ」
年初からまたこれか、と幸子は憂鬱な気持ちになった。
「ちょっと待っててくださいな」
ボタンくらい簡単に入ると思ったがなかなか通らない。
「あなた、いったんワイシャツを脱いでくださいな」
「俺は忙しいんだ。ワイシャツくらいちゃんと準備しておいてくれなきゃ困る」
ちゃんと準備しておいたのにな、と舌打ちのひとつで叩いてやろうと思ったが、面倒なので「あい、すみません」と言っておいた。
「まったく、お前ってヤツはいつも気が利かないんだから」
「えぇ、そうですね。気を利かしてアイロンしておいたんですけどね。あたし、なにもしないほうが良かったかしら?」
「なにか、逆ギレするのか?誰のお陰で飯が喰えてると思っているんだ?」
「誰って、私たち夫婦が協力し合っているからじゃないですか?」
「お前は一銭も稼いでないじゃないか」
「そうですね。私は一銭もあなたから頂いておりませんよ」
「口ごたえするのか?まったくお前はどうかしてるぞ。大事な仕事初めの日だっていうのに、胸くそ悪い」
「悪うございましたね。じゃ、私は実家に帰らせて頂きますね」
年を越せばなにかが変わると毎年思うけど、なにも変わりゃしない。年初めにガラッと変えるのもいいかもしれないわね。
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記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします